『ドント・ブリーズ』以降乱立する「~してはいけない系映画」の最新作。と言っても邦題がにドントがついているだけで、『ドント・ブリーズ』とはもちろん何の関係もないし、ホラーというよりサスペンス色が強い作品でもある。今回は「調べてはいけない」という設定だが、これを「ドント・リサーチ」と言ってしまえるなら世の中に『ドント・リサーチ』が大量発生することになるぞというくらい物語に新鮮味はない。設定やテンポよりも芸術性を重視したスペイン映画で、BGMもなく明るみに出てくる真実に背筋が凍るタイプの映画だ。
主人公のエスターは同棲中のロベルタの行動を不審に思い、後をつけることにする。すると彼の元に赤いドレスを着た若い女性が現れ、二人はかなり遠くの別荘に消えて行った。ロベルタの浮気に動揺を隠せないエスターだったが、家に帰っても彼を問い詰めることはできなかった。翌日、様子が気になった彼女は再び別荘へ。そこには縛られ血まみれになった女の姿があり…。
というのがこの映画のあらすじ。要は愛する彼が殺人鬼だったという物語なのだが、セリフもBGMも多用しない演出が綺麗にエスターの心を映し出している。浮気を知った動揺と、ロベルタに真実を聞き出せない葛藤と、彼の正体を知った時の恐怖、それらの移り変わりを演技力と静かな演出だけで魅せてくれる。冒頭は赤いドレスの女性の視点から始まるのだが、彼女が愛するロベルタに会うため精一杯おめかしをしてルンルン気分でデートに向かった先で死体を見つけてしまうという始まりも素晴らしい。総じて展開よりも人の心の動きを繊細に描いているのが特徴的だ。
ただ、オチが読める云々以前に愛する彼が悪い人でしたー、女性を救わなきゃー、追っているのがバレて捕まったーというだけの物語なので、ほとんど起伏がない。ロベルタが殺人を繰り返す理由も不明で、そこがぼかされているのが怖いと言えば怖いのだが、映画の全貌が把握できないため物足りなさも感じてしまう。それに、「浮気っぽいからついていったら殺人鬼でした」というバレ方もマヌケだ。もっとこう、人にバレないように工夫をするなり、何かあっただろうに。更に言うとロベルタとエスターの交流があまり描かれなかったため、主人公であるエスターはともかく、ロベルタの人間性はあまり語られていない。エスターが彼を愛していたことは伝わってくるが、ロベルタはあの人相だし特別優しい男でもないし、殺人鬼だと言われても意外性がないのだ。何ならこちらとしては「浮気男」という第一印象なわけだし。
終盤、エスターが妊娠しているのではないかと疑い検査薬を持ち歩くように。ロベルタに捕まった際にそれを奪われ、ズボンを脱がされて検査させられる。しかし、彼が近づいた隙に検査薬を頭に刺して殺害。命からがら逃走した彼女は数年後、幼い娘と共に幸せに暮らすのだった。いや、なんだこのフィナーレは。まず言いたいのがロベルタが案外弱いこと。赤いドレスの女性にも不意を突かれて攻撃を受け一度は倒れるし、最終的な死因が妊娠検査薬ってのもどうなの、と。エスターに殺人鬼であることがバレた件と言い、とにかく全体的にツメが甘い。女性が抵抗してきてもサラッとぶん殴るくらいの恐ろしさがないとこのキャラクターは成り立たない。
そして最後の娘とのビデオである。本来なら愛する男との間にできたとはいえ、殺人鬼の娘を生んでいいものかという葛藤がもう少しあってもいいはずだ。脱出後のシーンもないままいきなり娘との映像を見せられても、こちらは特に感動しない。葛藤がないわけではなかったはずなのだが、その描写が丸々カットされているためイマイチ腑に落ちない。
総評的に言えば、不穏な場目が続いて雰囲気はバッチリ出せているものの、物語としてはかなり微妙で、そもそも「愛する彼が殺人鬼だった」というスタートラインからのオチが全く効いていない。彼との間に子を設けることへの葛藤などに的を絞ってほしかった。ただ、スペイン映画ということもあってか全体的に芸術性は感じるので、映像としてはかなり好み。物語が伴っていればなおよかったかなと。後はロベルタの殺人シーンや拷問シーンもそこまで描写されないし、なんなら殺し方に特徴もないし、平凡な殺人鬼で終わってしまったのが残念。というか、よくあれでバレないと思ったなアイツ。