『仮面ライダージオウ』の続編、Vシネクスト『仮面ライダージオウ NEXT TIME ゲイツ、マジェスティ』が遂に劇場公開。『ジオウ』が平成最後の仮面ライダーとなったので、現時点で平成仮面ライダーシリーズの最終作という位置づけになる。
思えばこの『仮面ライダージオウ』というのは非常に贅沢な作品であった。毎週のように出演するオリジナルの俳優・各作品のテーマを丁寧になぞった話運び。要は平成ライダーを楽しんできた視聴者に対するある種のファンサービス的側面がとても強く、その代償として物語の一貫性は失われてしまった。設定が消滅したり変更されたり追加されたりと例年以上に忙しなく、週1回の放送では頭が追い付かなくなるほど複雑な時空間理論が登場し、ファンの中でも徹底的な考察がなされた。しかし、整合性と勢いをうまく使い分ける白倉Pのいつもの手口により、その考察が全て無駄になることもしばしば。「面白かった」と一言で片付けるのは難しい作品なのだが、それでもリアルタイムで番組を視聴する楽しみを毎週与えてくれたという意味ではすごくテレビ史的に意義のある作品だったと思う。
そんな風に複雑な『ジオウ』の物語だが、1つだけ一貫して熱量が注がれていた部分が存在する。それがキャラクターの関係性である。特に仮面ライダーゲイツ=明光院ゲイツという男の、倒すべき相手=ソウゴ=未来のオーマジオウと共闘していくうちに仲を深めてしまうという複雑な感情はかなり緻密に描かれていた。他にもツクヨミが死んだ(と思い込んだ)ことでジオウを止め救世主となることを決意する回や、本来は敵であるはずのウォズとも相容れないながら良き仲間となっていく姿は私たちに感動を与えてくれた。ツンデレだの秋山蓮だのと簡単な言葉で括られているが、彼のジオウに対する複雑な感情がこの作品のレベルを底上げしていたことは間違いない。
とはいえ、ゲイツの扱いは作品内では典型的な2号ライダーの枠に収まってしまっていた。ジオウのライバルとして現れ、白ウォズに救世主だと担ぎ上げられたかと思いきや、ゲイツリバイブの2種類でパワーアップが終了し、大した戦果を上げることがなくなってしまう。しかし湊ミハルの登場により再びおいしいポジションへと上り詰め、世界を救うためにツクヨミと共に未来へ戻ることを決意する。ここはゲイツの葛藤がよく表れているカッコイイ場面なのだが、すぐにアナザーワールドへ閉じ込められてジオウと共に生きていきたいという本音がバレてしまう。その上、話の核がツクヨミに移ったことで再び役目が終わってしまうのであった。だが、最終回では彼の死がソウゴをオーマジオウへと導くキッカケとなる。オーマジオウが君臨する未来を阻止するためにやってきた彼が「オーマジオウになれ」とソウゴに語り掛ける最期は涙なしには観られない。
オーマジオウを倒さなくてはならないという使命とソウゴと共に歩んでいきたいという意識の狭間で葛藤を続け、オーマの日に「ソウゴはオーマジオウにはならない」と言葉にした男。ソウゴとゲイツの関係性こそ、『仮面ライダージオウ』の核となる部分であった。しかし、最終回ではオーマジオウとなったソウゴがその力の真の意味に気づき、新たな世界を創造する。そこではソウゴとゲイツ、ツクヨミ、更にはウールとオーラまでもが共に学生生活を送っていた。「時計の針は1周して同じとこに戻ってきたように見えても確かに進んでいる」という悟りを開いた彼の言葉通り、ジオウ達が戦ってきた歴史はなかったことにはなっていない。だが、未来は全く未知数で誰にも分らない。そう、ゲイツのVシネが出ることは誰もが薄々気づいていても、まさかゲイツが柔道の大会に出ようとしているなんて誰が想像できただろうか。
ジオウ本編と同様、今回も豪華ゲストが物語を彩る。本編にも準レギュラーとして登場した海東大樹=ディエンド、555編に登場した草加雅人=カイザ、『仮面ライダーチェイサー』以来の登場となる照井竜=アクセル、そして『MOVIE大戦MEGAMAX』以来となる伊達明=バース。そして新たなアナザーライダーとしてアナザーディエンドが登場。話題性に事欠かないジオウのサプライズ精神はVシネクストでも健在だ。それでいて予告カットではクジゴジ堂メンバー4人が同時変身までしている。彼らは記憶を失ったはずではなかったのか…。ソウゴ達が如何にして記憶を取り戻すのか、何故再びアナザーライダーが出現するのか、カイザ達は何故現れたのかなどなど。情報が解禁される度に物語との整合性が心配になるが、ジオウにおいて最早辻褄などはあまり意味をなさないのだろう。それよりもやはり、新たな世界でゲイツ達の関係性がどう描かれるのかというのがこの作品のキモだ。
脚本は本編の約半分を担当した毛利亘宏。私としてはメインライターの下山脚本の方が好みだったので少し残念。監督は諸田敏。ビルドの幻徳さんをネタキャラ化させてしまった戦犯として有名で、この方のコミカルな演出が私はあまり好みではない。と、スタッフ陣にまで不安を覚えてしまっていたのだが…。
実際に鑑賞すると、ジオウ本編の特徴を捉えつつ、最終回後の物語であり、新たな世界でのゲイツのオリジンにもなっているという素晴らしい出来栄え。さすが1年かけてキャラクターを育ててきただけあって、ソウゴとゲイツとツクヨミがわちゃわちゃしているだけで既に楽しくなってしまう。そこにゲイツに恋するオーラとその舎弟と化したウール、まさかの先生でスウォルツという布陣が乗っかり、上質なコメディを目の当たりにすることができる。仮面ライダーはどの作品でも常に苦境の最中にいるので、こうして学園もの的な楽しさを緊張感なしに楽しめるのは貴重である。
前作の『ビルド』のVシネは最終回での新世界創造をほぼ無視するかのようにレギュラー達が次々と記憶を取り戻したが、今作では記憶や設定云々よりもキャラクターの魅力を採った形。ウォズのみが最初から真相を知っていて、救世主として巻き込まれたゲイツが途中で本編の記憶を取り戻す。しかし、ソウゴとツクヨミは最後まで何も思い出せないまま。ゲイツが記憶を取り戻すのもかなり後半なので、前半は怪人やライダーにビクビクする貴重な3人の姿が見られる。このエピソード0感が堪らない。記憶に関して言えば、何も覚えてないけどノリで変身してしまうソウゴとツクヨミが最高だった。あと、ソウゴのテンションが何故か本編より2割増し。
柔道でオリンピックに出場し金メダルを獲ることを目標にしていたゲイツは、試合中のケガで選手生命を絶たれてしまう。絶望する彼の前に現れ攻撃を仕掛けるカッシーンと、彼にブランクウォッチとジクウドライバーを授ける白ウォズ。ジオウ第1話を彷彿とさせる流れにニヤニヤが止まらない。しかしゲイツはウォッチとドライバーを投げ捨てる。そこに現れるのはゲイツの主治医・伊達明が変身した仮面ライダーバースであった。
伊達さんも照井も、オーラのお父さんの紹介で登場するという謎にテッパンな流れが既に出来上がっているのが面白い。草加はどうだろうと身構えていたら海東にいいように使われていたので余計に笑ってしまった。彼ら3人の登場はあくまでゲスト出演に留まるものかと思いきや、伊達さんや照井の言葉がゲイツが変身するキッカケになったりと、本編同様にレジェンドライダーとしての役割を全うしていて嬉しい。これなら前後編にして、ゲイツが各世界の2号ライダーを巡りマジェスティに変身する流れでもよかった。結果的には海東のライダーカードで全員の力が揃ってしまったのでやはりディケイド勢は強い。
白ウォズの説明で海東が世界を支配しようと企んでいることが示唆されるが、それはミスリード。真の敵はソウゴと仲良くなってしまったゲイツを見限った白ウォズだった。ディエンドの力を手に入れアナザーディエンドに変身した彼は、突然ゲイツに牙を剥く。むしろそれまできちんとゲイツを救世主として導こうとしていたのは何だったんだ…。個人的には、アナザーディケイドの力で復活したのに最後までゲイツの従者として使命を全うした彼の最期がとても好きだったので、今回のラスボス化に関しては複雑な感情を抱いている。別の世界の存在とはいえ…。ただ、白ウォズ特有のクネクネした気持ち悪い動きをアナザーディエンドでも見事に再現していたのは良かった。
本編でも濃密に描かれたゲイツのソウゴへの信頼感は今作でも健在。王様になるというソウゴの夢を理解できずにはいるが、目標があることに関しては好感を持っている点が実にゲイツらしい。それでいて、それを素直に相手に言えないのも正にゲイツ。ただ、本編の彼にはソウゴを最高最善の魔王に導き世界を救うという使命があったので、夢を絶たれ失意のどん底に落とされた彼の姿は珍しかった。で、そこから「俺は柔道がやりたかったんじゃない!」という言葉を決意の変身シーンで導き出すの、本当に笑ってしまうからやめてくれ。人を守りたいという真の気持ちに気づけた彼が記憶を取り戻し仮面ライダーゲイツに変身する展開は熱い。
白ウォズも黒ウォズに吸われ、一応これで彼らの戦いには決着が着いたわけだが、ソウゴとツクヨミは過去のことが気になり始め、ただの先生であるはずのスウォルツも何かしら暗躍しそうな雰囲気なので例年通りもう1作くらいはありそうな予感。できれば1作と言わず、ツクヨミ、ウォズ、オーラ、ウールと何作でもやってほしいですね。1人ずつ記憶を取り戻し仮面ライダーに変身していく流れだったら嬉しい。ウォズは全部覚えてるけど。
とまあ、過去の仮面ライダーVシネの中でもかなり上位に食い込むんじゃないかというほどに面白い作品でした。ジオウ放送中に「ライダー初見の人が観たらどう思うんだろう」と疑問に感じていたが、これもまたジオウ観たことない人に観てもらって感想を聞きたくなるやつ。夢破れた高校生の再起の物語として非常によくできていた。我々的には2週目なんだけど、きっとこれが第1話と言われてもそこまで違和感はないような、不思議な面白さに満ちた作品でした。