「繰り返される宇宙」というサブタイトルの通り、ループものです。しかもかなりとっつきづらいタイプのSF。恋人の乗った宇宙船アトロパ号が行方不明になったことを知った元刑事のコールは彼女を探すために宇宙へ。すると、意外にもあっさりとアトロパ号を見つけ出し恋人と再会するものの、アトロパ号は別の宇宙船と衝突。その船を調査すると、なんとアトロパ号そのものでした。そこからクルー達は一つの結論にたどり着きます。この衝突はループしている。
要約するとこういうことです。
①現在のアトロパ号が過去のアトロパ号と衝突し、航行不能に陥る
②未来のアトロパ号と衝突し、宇宙船が大破。クルー全員が死亡
この現象がループすることで、そこには無数のアトロパ号の残骸と過去のコール達の死体が散らばっていました。このループの説明としては、「彼らは場所は移動せず(航行不能のために移動できない)、時間だけを遡ってしまっている」だそうです。それにより過去のアトロパ号と衝突するという奇妙な現象が起こり、このループが発生してしまっているという状況。文系の私には何が何やらさっぱりでこの状況にどれだけリアリティがあるのか分かりませんが、とりあえず「ループを抜けなければ死ぬ」ということだけ分かっていれば映画には全然ついていけます。理論は難しいですが、まあ要するに死への恐怖なのでその点は分かりやすいですね。
最も恐怖を煽ったシーンが、脱出ポッドのシーン。乗組員の一人が自分だけ助かろうと脱出ポッドに乗り込みアトロパ号を抜けるのですが、脱出ポッドは途中である物体に衝突して停止してしまいます。その物体とは、アトロパ号と同様、無数に宇宙に散らばった脱出ポッドだったのでした。つまり、どのループでもその乗組員は他のクルーを裏切って一人脱出ポッドを使い抜け出そうとするも、過去のポッドに衝突しループに囚われてしまうというわけです。この脱出ポッドの数が10や20なんてものじゃなく何百という数で、なんと大量のポッドで惑星のリングを形成しているんです。意気揚々と抜け出した裏切り者が「出してくれー」と叫ぶシーンは絶望感も相俟ってなかなか見ごたえがありました。
ただ、映画全体としての出来はかなり微妙。宇宙船内の物語で登場人物も少ないので、かなり内輪の話になってしまっています。一応裏切り者やパニックに陥るキャラなど役割分担もなされているんですが、キャラクターを深くは掘り下げられておらず、「未来の自分たちと衝突する」というアイデア一発で勝負に出ているような印象を受けました。全体的に絶望感たっぷりなので空気も重いし……。もう少し話を広げてもよかったのではないかなあ、と。宣伝では「ループものの新たなる傑作!」と大々的に設定を推していましたが、設定だけでそれ以外の部分がまるで伴っていないような、全く感情を喚起させられない映画でした。
そもそもループものの醍醐味って何度も何度も繰り返す時間の中で足掻き続けるという部分だと思うんですよ。例えば『シュタインズ・ゲート』なんかは、ヒロインの死を回避しようとする主人公が過去への干渉を繰り返していくことで何度も未来を変えていくものの、なかなか目的を果たすことができないという葛藤を描いていました。ヒロインの死の回避に成功したと思ったら、今度は別のキャラクターが死んでしまったりと、過去への介入が予想もつかない未来を生み出し、泥沼にはまりループと後悔を繰り返すという面白味が、熱狂的人気につながったのだと思います。しかし、この『グラビティ 繰り返される宇宙』には「何度も何度も繰り返す」という葛藤はありません。この映画で繰り返されているのはあくまで「アトロパ号の衝突」。俗に言うループものとは少し毛色の違うものなのではないでしょうか。
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とはいうものの、尺は70分程度なので疲れた時にサクッとB級SFを楽しみたいときにはオススメの映画です。タイムリミットが設定されていて、自分たちが確実に死ぬことも分かっている。それをどう回避するのかという点を見届けていただければな、と。
余談ですが、この映画は1話10分×全7話の配信作品を繋げた映画らしいです。観る前は知らなかったのですが、言われてみれば確かにそれくらいの感覚で見せ場があったような……。そのことを頭に入れて鑑賞するとまた違った感想になるかもしれません。ぜひ!