ジュブナイルSFの新たな傑作 映画『HELLO WORLD』評価・ネタバレ感想!

映画  HELLO WORLD 公式ビジュアルガイド

 

 

伊藤智彦監督のことも野崎まどのこともほぼ知らず、そもそもアニメ映画自体あまり観ないのだが、予告の雰囲気でなんだか面白そうだなあと思い鑑賞した本作。メインキャラに声を当てているのは北村匠海、浜辺美波、松坂桃李の人気俳優3人で、挿入歌に若者に人気なofficial髭男dism、エンディングはOKAMOTO’Sというアニメファン以外の層にもアプローチをかけた作品で、私の隣に座っていた女性は挿入歌の時に首を振ってリズムをとっていたため、アーティストのファンや俳優のファンにとっても見逃せない作品だったのだろう。物語の構造や設定も10年後の自分が主人公の前に現れて…という至ってシンプルなものと思わせて、実はかなりSF的な物語。所謂セカイ系のジャンルで既視感はあるものの、作り込みの丁寧さに感嘆し、思わず魅入ってしまう良さがあった。

 

予告では主人公の直実の住む世界は実は作られたもの&未来のナオミが現れる&瑠璃を救うことしか分からず、あまり目新しさは感じられなかったのだが、実際には設定がうまく用いられていた。クロニクル京都という研究の一環で、京都で起きた出来事を仮想世界の中で再現しようという試みがなされ、突如現れたナオミによって直実のいる世界はその仮想空間の中であり、ただ歴史を再現しているに過ぎないことが明かされる。そして、10年前に付き合ってすぐの彼女・瑠璃を亡くしたナオミはたとえ仮想現実だとしても瑠璃の笑顔を取り戻すために直実の世界に干渉する。直実に世界を創り変える力を与え、自らの持つ記憶を頼りに直実と瑠璃を接近させていく。優柔不断でクラスにも馴染めない直実は、ナオミの言う通りに行動していき、無事に瑠璃と付き合うことになる。

 

しかし、実はナオミの目的は仮想現実の瑠璃をデータ化してナオミの世界で昏睡状態に陥っている本当の瑠璃を救うことにあった。彼女と再会するため、彼は直実を利用していたのである。正直、ナオミが登場した時に語った「たとえ記録の中だとしても~」という言葉に引っかかっていたので、あーなるほどというオチ。この映画、全体的に展開やオチに既視感があるのだが、それを丁寧に描写してくれるのでこちらとしても気持ちを乗せやすく、とても心地がいい。捻りをきかせた脚本と、ジュブナイルな演出が見事にマッチしているため、なんとも清々しい作品なのだ。確かに、常にBGMが鳴っていて受け手の感情がかなり限定されてくるのは若干癪だが、普段SFアニメに親しまないライト層にとってはむしろちょうどいい塩梅。このちょうどよさを出せる映画はなかなかない。驚かせることだけを目的とするのではなく、そこにしっかりとテーマや展開がついてくる感覚。改めて考えても、綺麗にまとまった脚本だなあと感じる。

 

その後、意識を取り戻した瑠璃だったが、ナオミを受け入れることはなかった。更に、ナオミの世界にも仮想世界のガードマンが登場し怪物化。そう、ナオミの世界も現実世界ではなく、仮想世界に過ぎなかったのだ。直実は瑠璃を取り戻す決心を固め、怪物と戦う。この辺りのアクションシーンはさすが映画というだけあって見ごたえが抜群。藤田和日郎がデザインに関わった(というかモロ藤田先生の作風)怪物たちも絶妙な気持ち悪さで襲いかかってくる。

 

もう言うことがないほどに洗練されたセカイ系の王道。ジュブナイルの輝きと、それに憧れを抱く擦れた大人の物語。二か月前に公開された『天気の子』に続き、早くも新たなアニメ映画の傑作が誕生してしまった。アニメに詳しい人の目にどう映るかは分からないが、少なくとも手軽に映画を楽しみたいというライト層ならば必ずグッとくる作品。鑑賞後は完成度の高さに驚くことだろう。90分程度という上映時間もちょうどいい。

 

「ラスト1秒でひっくり返る」というキャッチコピーを聞いて、あまりそういう宣伝好きじゃないんだよなーと警戒していたのだが、ひっくり返るというよりはあくまで予想通りな結末。どちらかと言えば、ラストの展開よりも『HELLO WORLD』というタイトルがどんと出てきたシーンの方が私としては好みだった。タイトルの意味がラストになってようやくハッキリしてくる映画は総じて傑作だと思っている。

ラスト1秒の展開に関してはまだまだ考察の余地がありそうだが、とにかくバッドエンドにならなくてホッとしている。個人的には黒沢清監督の『リアル ~完全なる首長竜の日~』に似たような展開があったなとそんなことを考えていた。

 

深く考えず素直に感動できるライトな側面も持った上で、重厚なSF作品としても楽しめる本作。野崎まど脚本の作品をもっと観たくなった。

 

 

HELLO WORLD 1 (ヤングジャンプコミックス)

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