Netflix映画『アイ・アム・マザー』評価・ネタバレ感想・解説! 皆、この映画の真相に気づいてくれ~~~~

 

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先日配信されたNetflix映画『アイ・アム・マザー』。率直な感想としては「やられた~~~~~~」というか「そっちかああああああああ」というか、とにかく事前情報やイメージからは想像のつかない方向性の映画で、硬派なSFに見えてある程度知識が必要になるタイプの作品。これ完全に大好物のやつや…と気づいたのは本当に終盤。全ての仕掛けに気づいた時、アイアムマザーというタイトルの意味すらも違って見えてくるという、まあ巧妙な映画だった。これをアンドロイドと人間の交流を描いたSFと捉えてしまうとかなり味気ない作品に思えてしまいそうだけど、実際はそうじゃないんだ! 裏側で物凄いストーリーが練られている作品なんだよ! ということを伝えたいがために、この映画の魅力を(ネタバレありで)語っていきたいと思う。

 

 

SFにみせかけた創世記

人類が絶滅した地球で、「母」と名乗るアンドロイドによって無数の胎児から一人選ばれ誕生した「娘」。しかし、大気が汚染されているはずの外から一人の女性がやってきたことにより、母を不審に思うようになる。

あらすじを聞いても、ビジュアルを見てもどう考えてもSF。アンドロイドは耳のない『チャッピー』にも見えるし、逆にポスター等を見てSF以外だと思うことはまずないだろう。しかしこの映画は単なるSFではない。もちろんその要素もあるのだが、実はSFだと思わせることこそがフェイクなのだ。容易に引っかかってはいけない。実際この映画の評価を調べてみると、「AIの母親と人類最後の生き残りの話だけど、共感できないしラストは微妙…」みたいな意見もいくつか目にする。かく言う私も途中までは同じことを思っていた。ビジュアルも船内のセットも非常にいいし、劇場公開でもないのに金かかってるなあ、ネトフリすげえなあ、でもあんまりおもしろくない…、と。

しかし、ラストシーンでこの映画の真相に気づいた時、その評価は180度変わることになる。「うわっ、これ、最高やあああああ!」と思わず歓喜した。思い返せば映画の中にかなり伏線が張られていた。もっと早く気づけたはずなのに、丁寧なSF風味のビジュアルが私の目を眩ましていたのだ。

 

 

 

ではこの映画の真相とはなんなのか。それは、この物語自体が聖書の創世記に繋がっているということである。

恐らく映画を観た人の中には、娘に弟が生まれた時、「あれ? 白人じゃないのか」と思った人もいるだろう。私もその一人である。しかし、これも全て伏線。以下、少しずつこの映画が直接的には語らなかった世界の真相について書いていこうと思う。

 

・世界に何が起きたのか?

まず気になるのが、何故人類が絶滅してしまったのか、ということ。母は大気汚染だと娘に説明していたが、実際には女性が外で生活できていた。つまり、大気汚染という説は消える。ここからは想像になるが、おそらくは人類の絶滅は戦争等の繰り返しによるものなのだろう。人類が何度も争いを重ねた結果、それに絶望した一部の人々が、人類が再起できるようにアンドロイドを作り、無数の胎児らを管理させたのだ。外から来た女性は「奴らはトウモロコシ畑と共に突然現れた」と言っていたが、彼女と「母」の言葉には嘘が多いため、簡単に信じ込んではいけない。ましてこのセリフが出てきたのは、施設から脱出してすぐである。女性が「娘」に素直に従ってもらうために嘘をついたことは容易に想像できるであろう。

また、アンドロイドが娘を大切に思い、女性を傷つけることがなかったのも、そうインプットされていたとすれば納得がいく。

 

・外から来た女性は何者なのか?

「母」と「娘」の関係に亀裂が入るきっかけとなった、外から来た浮浪者のような女性。彼女の名前は明かされることがなく、ジェイコブという仲間と一緒に鉱山にいたという話も、信憑性は低い。以前は鉱山で人々と暮らし、その人々が空腹から狂気に走るようになって一人逃げ延びて生活していたというのが彼女の最終的な説明であった。これはおそらく真実だろう。

私が思うに、彼女の正体は施設で管理されていたFEMALEの01、つまりアンドロイドが最初に誕生させた生命である。02については試験に落ちたためアンドロイドが焼却処分したことが語られたが、01に関しての言及が全くないというのは不自然である(03は「娘」)。女性がアンドロイドの心情を理解しようとせず、敵意剥き出しであったことを考えると、おそらくは誕生させてすぐに、アンドロイドは彼女のことを手放したと考えられる。そして、まだかろうじて生き残っていた人類が彼女を見つけ、育ててきたのではないだろうか。彼女を育てた人々こそ、「鉱山の仲間」なのだろう。

 
・外から来た女性が一人生き延びていた理由とは?

終盤、コンテナで「娘」の帰りを待つ女性の前にアンドロイドが現れ、人類で彼女だけが生き延びていた事実に対し、何らかの力が働いていることを示唆する。つまり、彼女だけが生き延びていたことには、理由があったというわけだ。その理由は結局明かされることがなかったが、映画の構造(後述)を考えると、自ずと結論は見えてくる。

彼女を生かしたのは、おそらくアンドロイド(「母」)だろう。そうすることで、「娘」が自分の出自や外の世界に違和感を持つように仕組んでいたのだと思う。つまり、アンドロイドの目的=過去にアンドロイドを作った人類の計画に、01を外で生き延びさせ、03と接触させるというものが組み込まれていたということだ。

 

 

映画内に散りばめられた仕掛け

ここまで語れば勘のいい方はお分かりだろう。つまり、この映画は「娘」が「母」から自立する物語ではなく、アンドロイドの手を借りた人類再生の物語なのだ。もちろん、この「アンドロイドの手を借りた」という部分がミソで、実質的に創世記がモチーフである事実が、数々の近未来的要素によって巧妙に隠されている。だが、人類再生の物語である以上、そこに聖書の創世記が関わってくるのは必然と言える。

私も後から気づいたクチだが、この映画が宗教的要素を多分に含んでいることに気づけるよう、映画の中にいくつも伏線が張られていた。

・外から来た女性はキリスト教徒

・女性の仲間の名前が「ジェイコブ」

・折り紙の動物たち(ノアの箱舟の暗喩)

・「弟」の人種

・「弟」の誕生方法(処女受胎)

・「アイ・アム・マザー」というタイトル

上に挙げたすべてが、この映画が聖書を題材にしていることを示唆している。特に、最後に挙げたタイトルの話。「母」と直球で呼ばれるアンドロイドが登場することから彼女のことを指していると思いがちだが、実際には聖母マリアになぞらえて「娘」のことを指している。これに気づけるかどうかで、映画の評価はガラッと変わってしまうだろう。

 

映画では「娘」が主人公であり、視聴者と目線や状況を共有している。それに対し、女性や「母」の言葉は嘘ばかりで、私たちも「娘」もどちらを信じるべきか分からなくなってしまう。最終的に「娘」は、どちらの側にもつかず「弟」を救い、彼や胎児たちと生きていくことを決意する。そして、長年育ててくれた母親に銃を向ける。ぱっと見だと、この映画は「娘」が母のでも部外者のでもなく、自分の価値観で人生を選び取ったという物語に見える。しかし、何度も言うようにそれこそがフェイクなのだ。

映画内に散りばめられた情報を統合すると、彼女の”「弟」や胎児と共に生きていく”という決断は、全てアンドロイドの計画のゴールであることが分かる。つまり、かつての人類(アンドロイドを作った者たち)が、人類を再興させるために練った計画を、私たちは「娘」の視点で見ているに過ぎないのだ。私はラストシーンでそれに気づいた時、思わず背筋に鳥肌が立った。何が何だか分からないという状況が2時間も続き、唯一自分と視点を共有していた「娘」の行動が、全てアンドロイドの計画通りだった、という仕掛けは、こちらを急に映画から突き放すようで、非常に楽しい映画体験だった。

 

最後に

ここまで長く書いたがあくまで私の考察であるため、どう受け止めるかは当然各自の判断にゆだねる。私は、ガッツリSFだと疑わない方たちがこの映画をつまらん駄作だと言っているのを見て、「ちょっと待ってくれ!」と割って入りたくなっただけである。それ自体がおせっかいではあるが…。だが、実際にこの映画に宗教的要素が入っているのは明らかで、かなり緻密に計算された奥が深い映画であることは間違いない。

冒頭の「母」に気づかれないように女性を助けるシーンなんかは、「母」の絶妙に怖い走り方と足音のせいで心拍数が嫌でも増すし、総括としてアンドロイドに育てられた娘が自立していく物語とも受け止められる。表面的にはスリラーや感動系にも寄せつつ、芯には事前知識を必要とするような内容を持ってくる。この二面性とその魅せ方が非常に好みで、もっとみんな評価してくれ!と思ってしまう。大好きな映画になってしまった。

ちなみに、似たような「実は宗教系」映画で『マザー!』という作品があるので(グロテスクかつホラーなので観る人を選ぶ)、未見の方は是非。もしやタイトルに「マザー」が入っている洋画は全部宗教系だと思った方がいいのかもしれない。

 

 

マザー! (字幕版)

 

 

 

なんでもわかるキリスト教大事典 (朝日文庫)

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