実写版カイジが9年ぶりに完結編として復活。原作者の福本先生が考案したゲームをもとに、映画オリジナルの物語が描かれる。「藤原竜也が出演する実写化映画は傑作」とまで言われてしまうほど、漫画の実写化映画の金字塔となったカイジシリーズ。令和の時代に再臨した彼は相変わらずのクズ&天才ギャンブラーだった。我々日本人にとって、藤原竜也があの格好で「汚ねえぞ!」と叫んでいるのは最早様式美である。底辺の人間が、自分たちを見下す金持ち達にギャンブルで勝利する爽快感、そして各ギャンブルが生み出す緊張感が見物のこの映画だが、これまでの2作に比べると、爽快感も緊張感も薄かったかなあと感じた。それはこの物語のスケールがとんでもなく大きくなってしまったことにあると思う。
これまでの映画カイジは概ね原作に沿って展開されており、利根川や一条との勝負は原作においても節目となっている。この2人に匹敵する強敵が福士蒼汰演じる高倉。陰の総理とまで呼ばれるエリートで、帝愛や政府を利用して預金封鎖を行い、弱者を切り捨てることで国を再建しようと企む男である。そう、この映画のカイジたちの目的は「預金封鎖を止めること」。つまりは、日本を救うことなのだ。これまで自分の命や金や人生や仲間のために戦ってきた彼は、遂に日本を救う救世主にまで上り詰める。
今回登場するゲームは4つ。バベルの塔・最後の審判・ドリームジャンプ・ゴールドジャンケン。しかし、メインはあくまで最後の審判であり、他の4つはオマケ程度のもの。更に言えばメインであるはずの最後の審判が非常に緊迫感に欠けるゲームなのである。もっと言うと、この4つのうちドリームジャンプ以外は、負けても基本的にカイジがすぐに死んだりするということはない。カイジの敗北は国民の危機に直通しているものの、カイジ自身の危機には遠回りという微妙なゲームなのである。
4つのゲームを順に解説していく。
バベルの塔
不景気で金もなく燻っていたカイジの元に現れたハンチョウ。彼に持ち掛けられたゲームこそがバベルの塔だった。参加者は一ヶ所に集められ、そこでゴールが発表される。そのゴールに聳え立つ8メートルの棒の頂点にある装置を手に入れたものが勝者という単純なルール。勝者は装置の表側の電卓に10億未満の数値を打ち、その金額を手にすることができる。もしくは裏面の特別ゲームへの招待券としても利用できる。ハンチョウからゴール地点を事前に知らされていたカイジは、隣の倉庫から鉄骨を架けて塔を登らずに装置を手に入れようとする。ドローンの登場やカイジを落とそうとする人々の出現で危機に陥ったが、装置に最初に触れることができたためカイジの勝利。ハンチョウとの約束を破り、カイジは裏面の招待券を利用した。
最後の審判
総資産額の近い人間が1対1で行うバトル。4つのFのフェーズに分かれており、それぞれファミリー・フレンド・フィクサー(銀行)・ファン(観客)と事前に話をつけ、秤に資産を積んでもらう。最終的に秤が重くなった方の勝利というゲーム。バベルの塔を主催した東郷が、大金を手に入れ政府の預金封鎖計画を阻止するために、帝愛の幹部であり派遣会社を牛耳る黒崎に勝負を挑む。しかし黒崎は東郷の周囲に事前に手を回しており、東郷やカイジの計画は悉く失敗に終わる。
その後、ドリームジャンプに成功し資産を増やしたカイジがドローン組と協力し、観客の心も掴んだおかげで東郷の勝利となる。
ドリームジャンプ
10人が同時にバンジージャンプを行うが、縄が繋がっているのはそのうちの1つだけ。その1つを選んだ者だけが生き残るという危険なゲーム。今作で唯一、負ければ即死という緊迫感がある。最後の審判に用いる資産を増やすためにカイジが参加。電源を落とすことで、1つ前のゲームからアタリの位置をズラさせないことに成功。加奈子に前ゲームで用いられた券(富裕層がどの番号に賭けるかを示した競馬のようなもの)を集めてもらい、そこになかった9番がアタリだと判明。9を選んだカイジは見事、金塊を10倍にして最後の審判へと戻った。
ゴールドジャンケン
高倉が最も得意とするゲーム。序盤で軽く説明され、この映画の最後のゲームとなった。その割には地味。3回戦のジャンケンだが、そのうち1回は必ず卵型の金を握ったグーを出さなくてはならないというルール。よって、金塊グーを3回目まで持ち越すと手が相手にバレる。1回目か2回目で消費しておくのが理想。カイジは1度でも勝てば自分の勝ちというルールを提案したが、その代わりにあいこの時も高倉の勝ちというルールにされてしまった。
1戦目はカイジの負け。2戦目も金塊グーを出しカイジが負け。後に引けなくなった3回目でカイジは金塊を握らずにグーを出し勝利する。高倉は金塊を持った人間の肩の動きなどで手を判別していたが、金塊を持たずにグーが来ることは予想できなかった。1戦ごとに預金封鎖に伴って印刷された新札へとたどり着くパスワードを開示する手筈で、カイジは最後の関門であるトランクのパスワードを守り抜いたが、実はそれは正午に自動的にリセットされる仕組みになっていたので、高倉の完全勝利となる。
と思われたが、実はカイジ達は印刷会社を買収しており、パスワードのリセットのことも知っていた。総理たちがトランクごと持ち出した新札は実は偽物であり、監視カメラによって彼らがそれを持ち出す現場を撮影することにも成功。正午になった瞬間に映像はネットに流出し、カイジ達は預金封鎖を阻止することに成功した。
ゲームに関しては、やはりどれも地味と言わざるを得ない。私は映画1作目が特に好きなので、あの緊迫感を全く味わえなかったのは本当に残念。そして、敵がデカすぎるが故に命や人生を賭けたやり取りが薄味になってしまったのも悲しい。政府を相手にするのはいいし、総理達を金の亡者として描くのもよかったのだけれど、もっと人命を直接奪うような描写が強くなれば、富裕層の嫌らしさが増したのかなとは思う。そしてカイジの策略が全て通用していないというキツさ。バベルの塔とドリームジャンプはギリギリだったが、最後の審判に関しては完全に後手に回っており、ゴールドジャンケンで勝負を挑んだのも元々は東郷の作戦を利用したもの。偶然が勝利を生むというパターンはこれまでもあったけれど、ゲームの退屈さゆえに爽快感が伴わないのは苦しいところだ。
そして月並みな人間ドラマである。最後の審判の途中、新田真剣佑演じる廣瀬が実は東郷の愛人の息子だったことが判明する。自分たちを見捨てた東郷に復讐するために秘書として3年間も付き添っていたのだが、ようやくその機会が巡ってきた形だ。黒崎に事前に情報を流し、カイジを陥れようとする。しかし、そこで実は東郷に愛されていたことが分かりカイジの味方となる。なんだろう、いいんだけどね。彼が投げたコインが最後に勝敗の決め手となる、とか。ドラマとしてはすごくいいんだけれど、ちょっと冗長にも感じてしまうというか。テレビドラマでやるならともかく、カイジでわざわざこんな展開用意しなくても、と少し覚めてしまったのは事実。あと、ヒロインの加奈子って何かしました? 本当に要らなくないですか? 役に立ったの口癖がキューってだけでは。
でもまあ遠藤や坂崎やハンチョウといった懐かしいキャスト陣を久々に見ることができたのは嬉しい。最後雨のスタジアム(ハイパーインフレの影響で出入り自由なのか?)でのカイジと高倉のやり取りもよかった。カイジが結局騙されて終わるエンディングも懐かしくてグッド。何より藤原竜也のカイジにまた会えたことが本当に嬉しいです。あのツッコミ方とか、演技なのか素なのか分からない感じがたまらない。だからこそ、どうせならもっとワクワクドキドキハラハラさせてくれる内容だったらなーと思ってしまうのでした。