RPGを題材にした転生異世界ファンタジーものが横行するラノベ・アニメ業界で、他の作品とは明らかに異なるアプローチで見事大成功を収めた『この素晴らしい世界に祝福を!』(通称:このすば)。ファンタジーや転生ものの王道を逆手に取り、個性豊かなズレた面々が激しく調子に乗ることでトラブルを巻き起こす。昭和のコント番組のようなコテコテ感がクセになる、異世界コメディという稀有なジャンルなのである。トラックに轢かれそうになった女の子を救って命を落としたかと思いきや実は救う必要はなかった上に自身はトラクターに轢かれて死んだカズマ。異世界への転生にあたり、何か一つを持っていけると説明された彼は、速攻で女神のアクアを選ぶが、この女神がとんだポンコツであった。その後も厨二病&爆裂魔法しか使えないアークウィザードのめぐみんと、ドM体質の屈強な剣士で実は王女様のダクネスをパーティに引き入れ、一行のドタバタな旅は続く。
なんやかんやで、魔王軍の手下や幹部を次々と撃破し(時に仲間とし)、人々を救ってきた一行。だが、そもそも村が襲われる原因は彼らにあったりする辺りが面白い。1つうまくいくとすぐに調子に乗り出す一行は、態度がエスカレートしていくうちに必ず大失敗をしでかしてしまう。そんな4人のドタバタ劇を見守るのが『このすば』の楽しみ方であり、肩の力を抜いて気楽に楽しめるのが特徴だ。そんなゆるゆるアニメが遂に映画化である。私はリアルタイムで観ていたわけではないので、感慨深さはないのだが、それでもやはりああいった趣向の作品が90分の映画として上映されるのはなかなか興味深く、初回上映に足を運んだ。めぐみんをメインに据え、紅魔族と魔王軍幹部・シルビアの戦いに巻き込まれたカズマ達一行。まるで正統派ファンタジーのような予告編の化けの皮を剥ぐのが非常に楽しみであった。
アニメから入ったので原作は未読。そもそもハーレムものや異世界もの、大きく括ればライトノベル自体に抵抗があるので、評判を聞かなければきっと『このすば』も観ていなかっただろう。それでもこのアニメを楽しめたのは、異世界コメディというジャンルに真正面から立ち向かった作風と、声優のアドリブで面白さが加速していくという親近感のためだろう。変にシリアスにならないどころか、シリアスになった瞬間にオチを想像して笑ってしまうようなコテコテの作り。全くキャラがブレないせいで毎回お約束のコントを繰り広げてしまうキャラクター。手垢にまみれた異世界ファンタジーに昭和のコント番組の要素が盛り込まれることで、嫌味のないギャグアニメになっている。
そのお約束は映画になっても変わらなかった。アクアはあまり役に立たない上に余計なフラグを立ててしまう。ダクネスはいつも通りのドMでオークに男が存在しないと知ると卒倒してしまう。めぐみんも1日1発限りの爆烈魔法でまたトラブルを巻き起こすのだが、今回はそんなめぐみんがメインの物語。名前だけは出ていためぐみんの家族が登場するのだが、これまた金にがめつい上に倫理観が破綻した母親という強烈なキャラクター。いちいち面倒な名乗りとポージングを披露してくる紅魔族の面々も愛くるしい。
要するに、いつも通りの『このすば』なのである。作風も空気感もテンポもテレビアニメと全く同じで、作画がアクションシーンだけやけに技量が増すのも同じ。これ、テレビアニメから入った人たちにはこの”ふるさと感”がとてつもなく嬉しいだろうなあ、と最近入ったにわかの私は考えてしまう。テレビアニメからシームレスに映画館へ足を運んだのでどうしてもその辺の感動は薄い。よくある異世界ものだと思い込み、食わず嫌いしていたのがよくなかった。
特にめぐみん好きにはたまらない。なんてったって「紅伝説」というサブタイトルなのだから、めぐみんの見せ場が多い。お得意の爆烈魔法が最終的に役立つのはいつも通りだが、今回はその意味合いが微妙に異なってくるのもいい。また、めぐみんとゆんゆんの過去が明かされ、ゆんゆんがめぐみんの妹を救うため、そして爆烈魔法習得のために努力を重ねていためぐみんのために、自らのスキルを決めたことが判明する。いつも残念な役回りのゆんゆんの、友達思いな一面を見ることができるのだ。そして、戦いが終わって爆烈魔法を放棄することを選んだめぐみん。カズマにスキルをいじってもらうよう頼むが、カズマは彼女の爆烈魔法を消し去ることはしなかった。めぐみんには、そしてパーティには彼女の爆烈魔法が必要だと分かっていたのだ。絶対最後は変なオチがついてるんだろうなあと勘繰っていたので、素直に感動させられたことに驚いてしまう。
ただ、ラストのバトルはやや冗長。20分程度のテレビアニメに慣れていたこともあり、オチが見えたギャグ作品のアクションはどうしても長く感じてしまう。作画やシナリオが良かっただけに、この辺りのテンポ感はどうにかならなかったかなあと思ってしまうところ。ただ、それを除けばいつも通りの『このすば』なので、作品を知る人こそ楽しめる映画になっていたのはよかった。
結局期待していた3期の発表はなかったものの、原作のストックはまだ相当あるようなので、そのうち作られる日が来るかもしれない。更に洗練された声優達のアドリブ合戦が楽しみである。
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