先日、令和仮面ライダー第2作『仮面ライダーセイバー』が発表され、プロデューサーと脚本が『仮面ライダーゴースト』のタッグであることが明かされた。高橋一浩Pと福田卓郎脚本である。『ゴースト』は長い仮面ライダーの歴史上でもかなり物議を醸した作品で、私もリアルタイムでは毎週頭を抱えていた。
何故タケル殿は何度も死んで生き返るのか?
何故マコト兄ちゃんが何人も出てくるのか?
眼魔たちの目的は一体何なのか?
重要な設定はほとんど説明されず、レギュラー陣とベテランゲストによるコントのような短編が幾度となく積み重ねられて歪な形のジェンガを形成し、それが成り立つでもなく崩れるでもなく、一番中途半端な形で終わってしまったのである。前作『ドライブ』が最初こそ低迷していたものの第3クールから持ち直して見事な結末を迎え、後の『エグゼイド』では展開のスピーディーさで視聴者を釘付けにしていった。そんな2作に挟まれた『ゴースト』の評価は未だ低い。正直『セイバー』にPと脚本が再起用と聞いて首を傾げた。
しかし、『ゴースト』は劇中ではほとんど語られなかった裏設定を知ることで面白さが何百倍にもなるという不思議な作品なのである。その設定は超全集や小説版に記載されているので、今後ブログでも紹介したい。あるインタビューによると、プロデューサーは眼魔側の動向や目的・過去の描写をあまり必要と考えていなかったらしい。また、制作陣が当初予定していた物語はテレビ朝日からGOサインを出してもらえなかったという噂もあり、悩み悩み抜いた苦労が作品にも表れてしまっている。メインライターの福田さんが中盤しばらく書いていなかったのも気にかかる。ゴーストという名の通り何かと曰く付きの作品なのだが、仮面ライダーシリーズは1年間も放送されているため、終了後は不思議と愛着がわいているものなのだ。ここまで文句を言っておきながら私ゴーストの鑑賞は3周目である。
で、せっかく観るのなら記録をつけようということで大体6話ずつくらいに区切って感想を書いていこうと思う。既に2回もゴーストを履修している人間の感想なので核心的なネタバレを途中で書いてしまうかもしれない。初見の方は注意してほしい。今回はとりあえず1話から6話まで。
- 放送前
- 『劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー』
- 仮面ライダードライブ 第47話・第48話
- 第1話「開眼! 俺!」
- 第2話「電撃! 発明王!」
- 第3話「必中! 正義の弓矢!」
- 第4話「驚愕! 空の城!」
- 第5話「衝撃! 謎の仮面ライダー!」
- 第6話「運命! 再起のメロディ!」
- 総評
放送前
まずは放送前、事前に発表された情報を聞いての印象。
『ドライブ』が機械的なモチーフだったので、続く『ゴースト』に直球で幽霊というオカルト的な要素を持ってくるのは面白い対比だった。『W』後の『オーズ』、『フォーゼ』後の『ウィザード』的な。しかしゴーストというのは幽霊とか怪奇とか、負の印象とセットなのでそこは挑戦的。海賊をモチーフにした『ゴーカイジャー』の成功とかその辺も関係しているのだろうか。しかし、それだけに留まらないのが『ゴースト』の素晴らしいところ。
変身アイテムは偉人の魂が込められた眼魂という目玉のような物で、第1話で怪人に殺される主人公は、生き返るために99日以内にその眼魂を15個集めなくてはならなくなる。収集アイテムに数が設定されるのは『フォーゼ』以来。しかしフォーゼでは40のアストロスイッチのうちほとんどが換装アイテムであり、フォームチェンジではない。ここに大きな違いがある。
まあ簡単に言えば、「15種類(オレ魂とあわせて16種類)のフォームチェンジは絶対しますよ」、という宣言なのだが、特撮ファンの玄人はそこにすぐに予算の問題を見出してしまう。それは当然制作陣も頭を悩ませただろうが、恐ろしい最適解を導き出してしまうのが一ファンと違うところだ。各フォームは素体の上のパーカーとマスクだけの変更に留めたのである。パーカー状態のゴースト達のノリの良さ、フード付きのライダーという異色さ。予算という越えられない壁すらも、独創性と経験値でぴょいと飛び越えてしまう東映の実力に思わず脱帽させられた。
眼魂はモチーフの通り「目」でありその中には「魂」が込められている。人と人との繋がりは魂の繋がりであり、それらは目を通して通じ合っているという暗喩だろう。そして、未熟者に設定された主人公の天空寺タケルが、多くの人と見つめ合い繋がっていくことで成長していく物語なのだと、私は新番組に期待を寄せていた。当時の唯一の懸念は、ゴーストの胸板が厚すぎることだけであった。まさかそれが思いもよらぬ結果になるとは……。
『劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー』
いきなり前作『仮面ライダードライブ』を持ち出してきて何事かと思った方もいるだろう。説明しておくと、ゴーストの映像作品初登場はこの映画なのだ。9月スタートの『仮面ライダーW』以降、次回作の主役ライダーが夏映画に登場するのがお決まりになっており、ゴーストもそれに倣った形である。当時は主役のキャストすら発表されておらず、エンドクレジットも「???」となっている。ちなみにその1年前、『鎧武』の映画にはドライブは登場しなかった。
映画での登場は一瞬。目の魔法陣から突然現れ、ロイミュードに襲われる人々を助ける。オレ魂で戦った後、ニュートン魂にゴーストチェンジし、敵を倒す。ただそれだけである。しかしリアルタイムで鑑賞すると次回作のライダーを垣間見ることができる特別な時間なのだ。惜しむらくは、この映画で意気揚々と使われた、幽霊を意識したように宙を浮く演出が子ども達に不評だったこと。結局テレビシリーズが始まると使われたのは1話だけとなった。本来ご褒美であるはずの映画先行登場が、呪いとなってしまったという悲しい話。
動くゴーストを見るのはこの映画が初めてだったのだが、やはり画像で見た時よりも胸板の厚さに違和感があった。後で電飾を埋める関係だと聞き納得。
仮面ライダードライブ 第47話・第48話
この年の東映・バンダイはかなり気合が入っていたのか、新番組である『ゴースト』の告知に例年よりも力を注いでいる。一つはオレ眼魂の先行単品販売。そしてもう一つがこの先行登場である。
ドライブ47話、ビルから落下して意識を失い死の淵を彷徨う進ノ介の前に現れ、行くべき道を示すという役回り。映画を観に行かなかった方々にはこれがゴーストの初お披露目となる。夢の中とはいえ、進ノ介を絶命させた001ことフリーズロイミュードをあっさり倒してしまう強さを誇った。やはり本編とは印象に相違があったようで、この頃は冥界の使者のようなイメージがある。本当はただの死人なのだが……。
48話では、ゴーストと眼魔が物語にガッツリ関わってくる。進ノ介が追っていた組織、ネオシェードが眼魂に目を付けるが、それを眼魔とゴーストも狙っていて、という話。眼魔やゴーストの一般人には見えないという特性がうまく活かされた回。この回でタケルはニュートン眼魂を手に入れる。当時はこの眼魂集めが人の生死に関わるような問題だとは思っていなかった。進ノ介とタケルの新旧ライダーの邂逅もここで行われた。
第1話「開眼! 俺!」
物語の中盤やラストで死亡するヒーローは数多く見てきたが、主人公が1話で死んでしまうのは初。勿論そこで終了ではなく、生き返るための眼魂集めというストーリーが繰り広げられるわけだが。初見の時の印象は「あっさりしてるな~」という簡素なもの。正直事前に東映公式HPを見て知っていたあらすじ以上のことは起きなかったので、役者の演技やアクションしか楽しむところがなかった。主題歌も挿入歌扱いだったので。
しかし今思えば、元々かなりコメディ路線のつもりだったのかもしれない。タケル殿の演技も、竹中直人の起用も。『ゴースト』はコメディになりきれなかった作品という結論が私の中であって、おそらく脚本家がやりたかったのはシリアスな物語をタケル殿の無邪気さで切り込む言わば『クウガ』的なテイストだったのだろうが、それが重すぎたor伝わりづらかったがために、説明不足で笑いに走るしかない中途半端な子ども向けコメディになってしまったような、そんな気がするのである。見当違いかもしれないが。
『ゴースト』を好きな方はこの感想を読んで不快に思われるかもしれないが、私は作品の完成度や熱量で好きかどうかを判断する人間なので、一貫性がなくキャラクターもうまく動かせていなかったこの作品には否定的な意見が出てしまうのである。すみません。
勿体なかったのは1話で既にムサシ魂が出てしまったこと。当時は気にならなかったけど、こんなペースで登場するとどうしても基本フォームが弱く見えてしまうので。
第2話「電撃! 発明王!」
エジソン魂とイグアナ初登場回。ゴーストというモチーフに合わせて巨大メカが幽霊船なのはすごくいいのだけれど、バイクと合体して巨大イグアナになるのは何故なのか。しかもこのイグアナ、あまり活躍していた記憶がない。まあ、巨大メカがほとんど登場しないのは平成ライダーの負の歴史でもあるのだが(シュードラン)……。
1話完結のオーソドックスな回だが、眼魂を生み出すのに必要なものだとか、重要な設定も開示されていく。単発ゲストであるはずの園田さんの髪形のインパクトが異常に強い。そして脚本の福田さん、特撮初めてなのにムサシ魂で電気眼魔に挑むのはアウトみたいな属性的な関係性を作り込んでるのがいいです。まあ、結局後半では英雄眼魂自体あまり使われなくなるので、そこまで深い扱いはされないのだが。それでもとにかくフォーム数重視の販促をする序盤では重要なことだと思う。
普通に暮らす高校生を見て、もう戻れないのかなと不安になったりと、タケル殿のメンタルが結構弱いことが強調されている。しかしそれも序盤だけ……。この頃のアカリはいい具合に幼馴染としてタケル殿の心の支えになっている。しかしそれも序盤だけ……。
第3話「必中! 正義の弓矢!」
ロビンフッド魂初登場。タケル殿は次々と眼魂を手にしていく。不可思議現象研究所を発足したことで、ただでさえ強かった御成の存在感がどんどん増していった。この回のラスト、必殺技を決めたロビンフッド魂の振り向き爆炎カットがめちゃくちゃカッコイイ。いや、どう考えてもそんな爆発するような技じゃないだろとツッコんじゃうんだけど、それでもカッコイイのでよし。
ストーリーは第2話に続き、無難な1話完結。しかし、タケル殿はこの回で早くも必殺・生きてほしいハグを会得してしまう。眼魔に騙され命を落とそうとしている人に突然抱き着き「生きてほしい」と唱えることで、眼魔から解放するという離れ業である。普通の人は絶対に出来ないし、そもそもハグはしない。この回で、これまで人間味に溢れていたタケル殿が突然バグを起こしてしまったため、視聴者は一気に突き放されることとなった。
第4話「驚愕! 空の城!」
ゴースト本編としてはニュートン魂初登場。ドライブ劇場版でも観ているのでそこまで驚きはないが、何回観てもニュートンの力を使って引力と斥力を操れるというのは面白すぎる設定。発見しただけなのに。
この回ではノブナガ眼魂を巡る眼魔との戦いが繰り広げられる。羽柴社長が眼魂に唆されて町1つを浮かせて「私の安土城だ! 私は信長になるんだ!」と意味不明なことを口走るようになったため、タケル殿の生きてほしいハグが炸裂してしまう。ヒゲダンディズムだろうが躊躇なくハグしてしまうあたりに、タケル殿の純真さが現れている。前話の相手が女性だったのでまだよかったが、今回は年上の男。タケル殿はかなり怪しい存在になってしまった。
しかしせっかくのハグも虚しく、ノブナガ眼魂はスペクターに持ち去られてしまう。ここのスペクター初登場のBGMの入りが最高にかっこいいので何度も観てしまう。というかスペクターの基本フォームがかなり好きな造形なのだ。ここからしばらくは主人公の邪魔をしながらも何か裏がありそうという、ザ・2号ライダームーブを続けることとなる彼の初登場をぜひ目に焼き付けてほしい。
第5話「衝撃! 謎の仮面ライダー!」
タケルとマコトが出会う回。そして、ゴーストとスペクターが衝突する回でもある。多人数ライダーの作品でもないのに(当時はそれを知る由もなかったが)第5話にして2号ライダー本格登場というのはかなり早いペースである。しかも平成1期のノリで主人公に対決を挑んでくるのでかなり興奮した記憶がある。
「お前は甘い」という言葉を殊更強調し、自分の命と人の命を天秤にかけられるか的なことまで言う謎の男・スペクター。実は7話か8話くらいで昔失踪したタケル殿の幼馴染であることが発覚するのに、何を謎の人扱いしているのか。しかも自分の命がどうたらこうたらの話、タケル殿は相当ショックを受けていたが、マコトの過去から察するにこの発言の真意が未だに分からない。「お前は甘い」というのは、目的のためなら何としても眼魂を集めろということなのだろうが、命の方は明らかに脚本家の視点で今後の展開を示唆するものになってしまっている。11話で訪れるカノンを元に戻すか自分が生き返るかという問題。
アラン達との繋がりも示唆され謎めいた男であることに変わりはないのだが、幼馴染なんだから尚更謎めく必要性ゼロなマコト兄ちゃん。最初からみんなに事情を話した上で接していけばよかったんだと思う。「お前は甘い」ってあれほど言っておきながら自分もまあまあ甘いので、まあファンはつくだろうなという感想。
スペクターのバイクも初お披露目ということで、ゴーストとのチェイスシーンがあるのが見どころ。ゴーストも例に漏れずあまりバイクに乗らないタイプの平成ライダーなので貴重なシーン。
第6話「運命! 再起のメロディ!」
前回マコト兄ちゃんにメンタルをズタボロにされたことで、視認コントロールすらできなくなったタケル殿。ベートーベン眼魂争奪戦の過程で、アカリの言葉に励まされ改めて仮面ライダーゴーストとしての決意を固めるという回。まだ6話なのに挫折からの再生というストーリーを一気に駆け上がるスピード感。後半でもこれだけ感情の起伏があれば……。
生きるとか死ぬとかどうだっていい、今ここにいることが大事。そのアカリの言葉はかなり核心をついているのだが、『ゴースト』という作品は主人公が生き返ることがゴールに設定されているので、そこをうまく掘り下げてほしかったなあというところ。思えば『ゴースト』は最初生者と死者の話かと思っていたのに、実は肉体と魂の物語で、しかもそのネタバラシをしないまま物語が進んでしまう。タケル殿の「生き返る」というゴールが、2クール目以降、敵との戦いの中に組み込まれていないのだ。まあ、敵より先に眼魂15個集めよう、集めたけど使えなくなったから邪魔する奴を倒そうという話ではあるのだが、結局は欲望を叶えるアイテム争奪戦という、龍騎や鎧武のようなストーリーになってしまっている。しかしキャラが少なく人間関係が丁寧に描かれているわけでもないので、陳腐で変わり映えのしない戦いに陥ってしまう。
悪口になってしまったが、私は1クール目に限ってはかなり安定した作品だなと思っている。そのことは次回の記事で書くことにしたい。
この回は敵の攻撃で音が失われるという演出が何気に凄い。子供向け番組なのに一切無音のシーンが続くのだ。あれ、テレビ壊れた?と二度見してしまう。諸田監督の演出はあまり好きではないのだが、やはり奇抜なことをやらせると特徴の出る監督である。
総評
ドライブに登場した回と、第1話~第6話までの総評。ここまでは可もなく不可もなくといったところだろうか。1話はパッとせず、2話~4話の1話完結販促ノルマこなしエピソードはなかなかキツいが、続く5話・6話でスペクターが現れて作品にいい具合の緊張感が生まれる。まだ序盤なので十分ポテンシャルを感じる出来栄えだ。そう、実際に私もこの頃はゴーストに期待していた。この頃までは。
しかし何度観ても眼魂というアイテムとそれをベルトに入れることで現れるパーカーゴースト、そしてそれを着ることで変身完了というアイデアに驚かされる。前年の『ドライブ』が車なんだからミニカーを集めてタイヤコウカーンというのはいい意味で馬鹿馬鹿しく楽しめるのだが、ゴーストぐらい独創的なものを出されるとただただ絶句してしまう。いやマジでどういう思考回路してたらこんなの思いつくんだ。
ただ、事前情報から持ったイメージ(幽霊モチーフや死との向き合い方)よりかは少し控えめな印象で、当時はまだ始まったばかりだしなーと思っていた記憶がある。まあ、平成2期だし派手なことはしないよね、という諦観もあった。
書きながらいろいろ懐かしくなってきて楽しいのだが、これを読んだ方も同じ感想を持ってもらえると嬉しい。