容姿を笑われた男の報復劇 映画『ラバーボーイ』評価・ネタバレ感想!

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ジェイソンやレザーフェイスなど、海外のホラー映画には特徴的なマスクを被った殺人鬼が数多く登場する。本作に登場する殺人鬼も、例のごとくマスクを被り、次々と女性を殺害していく。パッケージにドンと配置されているマスクは出てこないので注意。しかし、本編で被っているマスクの絶妙な無表情の方が恐怖を掻き立てるかもしれない。基本的にはチープなホラー・スラッシャー系映画なのだが、これがなかなか面白い。ポルノサイトで私生活の全てを監視されている女性たちが、ある男の怒りを買ったことで殺されていくというなかなか現代的なストーリー。

 

原題は『GIRL HOUSE』で、無論主人公の女性カイリー達が暮らすポルノサイト運営の屋敷のことを指す。無数のカメラによって彼女たちの私生活は監視され、ご要望とあらばその場でストリップを披露する。屋敷の場所は山奥で滅多に人が入って来ない上、いざという時は常駐の警備員が対処するという徹底ぶり。法の規制さえクリアしてしまえば現代の日本にも生まれてしまいそうなビジネスだ。カイリーは父を亡くし、学費と母親への仕送り代を稼ぐためにこの屋敷に入居。安心安全のセキュリティのおかげで襲われる心配はないという一点で、あっさりとこの仕事を決めてしまうのだった。だが、そこが落とし穴だったのである。

 

こういったスラッシャーものというのは、犯人の動機・正体が分からずグループのメンバーがやけに派手に殺されていくのが常である。物語のチープさをいかに巧妙に隠し、殺人の演出に力を入れるかが勝負所といってもいい。つまり、スラッシャー映画においてストーリーとはあってないようなものなのだ。しかし、この『ラバーボーイ』は主人公と殺人鬼のバックボーンを丁寧に描く。そのおかげでなんと1時間近く殺人が起こらないという非常に稀有な映画なのだ。もちろんその後にバンバン美女が死んでいくので、そっちを期待していた人も安心してほしい。ただ、このドラマパートがやけに丁寧なおかげで地に足の着いた恐怖を楽しめるというか、テーマが非常に現代的な上、いつこの国で起きてもおかしくないような展開が繰り広げられるのである。

 

この映画はある少年が近所の少女たちにイジメられるシーンから始まる。「ラバーボーイ」=イケメンとおだてられた彼が調子に乗って下半身を晒すと、少女たちは大笑い。容姿に自身のなかった彼は恥ずかしさのあまりその場を逃げ出すが、しばらくして少女の一人に復讐を果たす。自転車で走ってきたところを無理矢理転ばせ、血まみれで動けなくなった彼女を橋から転落させてしまうのだ。このわずか数分のプロローグで、ラバーボーイが自分の容姿と女性関係にコンプレックスを持ったことが分かるという巧みなシーンなのである。

 

数十年が経過し、インターネットの配線技師として働くラバーボーイはガールハウスの常連になっていた。そこで彼が出会ってしまったのが主人公のカイリーである。どストレートに心を打たれた彼はカイリーに猛アピール。そのまま一人で会う(チャットを個人専用にする)約束まで果たしてしまう。この時点で観ている私たちからしたら何が起きるか明白で嫌な予感しかしないのだが、カイリーは根が優しいためラバーボーイとも積極的に交流する。約束の日、チャットの最中に容姿の話になり、ラバーボーイは自身のハッキング技術で、できないはずの画像送信を行う。「この顔を見てもカッコイイと言ってくれる?」と、自分の写真を送り付けたのだ。一瞬絶句するカイリーだったが、とりあえず相手の気を悪くしないよう場を取り繕う。しかし、マヌケな彼女はPCをその画面にしたまま部屋を出て行ってしまった。

 

カイリーの部屋を以前使っていた女性が部屋を訪れると、なんとあの常連客、ラバーボーイの顔写真がPCに写っているではないか。しかもとてもイケメンとは言い難い顔面。カイリー以外の女性たちは爆笑し、落書きをして壁にその写真を貼り付ける。そして、不幸なことにラバーボーイはカメラの映像でその写真が貼られているのを見つけてしまうのだった。自身がバカにされていることに激昂したラバーボーイはガールハウスの場所を突き止め、次々と女性たちを殺害していく。

 

指を切り落としたり、サウナの温度を限界まで上げて閉じ込めたりと、なかなか素人とは思えない(実際幼少期に一人殺してはいるが)殺人鬼ぶりを見せつけるラバーボーイ。何がいいって走って女性たちを追いかけてくるのがちゃんと怖い。あと、知らず知らずのうちに部屋にいたりと、まるで忍者のような隠密行動も得意としている。図体のデカさからくるパワーだけでなく、インターネットの知識、足音を立てずにターゲットに近づく繊細さなどなど、殺人鬼として申し分ない要素を数多く兼ね備えていて、これで癇癪持ちでさえなければ、なかなかマトモに生きられただろうと思う。最終的にはカイリーの作戦で殺されてしまうのだが、それ以外のハウスの面々や警備員、運営のメンバーは全員殺したというなかなかの戦績。これ1作で終わってしまうには勿体ない逸材だ。

 

ただ、私が何より恐ろしかったのは、この映画で起きた出来事が「実際に起こりそう」だという点。「会いに行けるアイドル」という言葉が定着して数年が経ち、実際にアイドルとの距離感を見誤って一線を越えてしまうファンのことも大きく取り上げられている。握手会やチェキ会だけならともかく、ファン獲得のためにどんどん接待が過激になっていくアイドルもいるという。それはまた、ファン心理としても所謂「ガチ恋」にまで発展し、結果的に犯罪に手を染めてしまうという悪循環を引き起こすことになる。この映画のラバーボーイは正にそれである。インターネットが一般的になり、子どももスマホを持つ時代。人との繋がりは容易くなったし、会いに行けるアイドルの登場でお金を払って異性と交流するという機会も増えた。だが、それは金銭の繋がりであることを自覚しなくてはならない。繋がりそれ自体ではなく、金銭授受によって生まれる関係性なのだ。

 

この映画のラバーボーイも、カイリーが発した「かっこいい」という言葉を真に受けて規約を破り、自身の画像を送ってしまう。それを嘲笑う女性陣もどうかと思うが、彼が画像を送らなければ全て起こり得なかった出来事なのだ。距離感を見誤った結果がこの大虐殺なのである。しかし、この映画と現代社会の距離は至って近い。この「今にもどこかで起こりそう」という不安こそが、この映画に感じた恐怖の正体なのではないだろうか。

 

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