『ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー』(ルパパトキュウ)ネタバレ感想! 3大戦隊の見事なコラボレーション

 

現行の戦隊と1作前の戦隊がコラボする、毎年恒例のVSシリーズ。昨年は『キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』という変化球が投げ込まれ、シリーズ存続の危機かと思われたが、今年は無事に決行された。しかし、2大戦隊が対立した『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(以下、ルパパト)と、12人の救世主が活躍した『宇宙戦隊キュウレンジャー』計19人に加え、『動物戦隊ジュウオウジャー』からもジュウオウザワールドがゲスト出演し、総勢20名のヒーローの立ち並ぶ姿は、例年を上回るインパクトがあった。

 

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まず一言、本当に素晴らしい作品だった。VSシリーズならではの2大戦隊の掛け合いや、価値観の違いを踏まえての共闘、そして各作品の鉄板ネタをふんだんに盛り込んだ正にお祭り作品。史上初の3大戦隊勢揃い+1のスケールに負けないエンターテイメントに富んだ演出と脚本。1年間かけて丁寧にキャラクターたちを紡いだルパパトのハードルをものともせず、キュウレンジャーの面々と組むことで、更に物語に深みが増す構成。どれも想像以上のものが出てきて、あまりのサプライズに慄いている。

 

もともと私は、ルパパトとキュウレンジャーの2作は「構成が特殊」という共通点こそあれど、その作風は対極に位置するものだと思っていた。ルパパトが各キャラクターを深く掘り下げ一人一人の価値観を擦り合わせることで、すれ違いを生じさせて感動を生み出すタイプなのに対し、キュウレンジャーは12人もメンバーがいるにも関わらず主にラッキーとツルギが物語の舵を取り、細かいことを気にせずとにかく明るい救世主たちというテンションで進行していった。白状すると、私はテレビ本編の『宇宙戦隊キュウレンジャー』がかなり苦手である。せっかくの多人数を全く制御しきれておらず、キャラクターの扱いにも偏りが見られた。何より、キュウレンジャーのメンバーがラッキーに対して絶大な信頼を寄せていたが、そこに全く説得力が伴っていなかったのである。形だけの「信頼」や「希望」。何故か料理に掛けたセリフばかりを言わされているスパーダ。個人を掘り下げるのではなく、壮大なスペースオペラをぐんぐん進めていく作風に正直嫌気が差しており、ルパパトの第1話を観たときは解放された気分だった。

 

対するルパパトは、2大戦隊という特殊な構成に名前負けしない、見事な出来。観ていない作品もあるが、私の中ではスーパー戦隊史上トップクラスに面白い作品だと思っている。恒例とはいえ、そんな2つの作品がクロスオーバー。完結してしまったルパパトの物語を再び楽しめるという期待の反面、苦手なキュウレンジャー達が邪魔になるんじゃないかという危惧もあった。とはいっても、ルパパト7人のキュータマダンシングだけで、元は取れたも同然なのだけれど。

 

宇宙戦隊キュウレンジャー 全曲集

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そんな二律背反を抱え鑑賞したルパパトキュウだったが、結果的には見事なクロスオーバーだった。VSシリーズの王道を抑えながら、各作品の特色をうまく抽出しており、さすがは長年スーパー戦隊を支え続けている荒川脚本&加藤監督。荒川さんはルパパトもキュウレンジャーも数話しか担当していないのだけれど、それでもここまでしっかりとキャラクターを掘り下げられるのかとさすがの手腕に感服。些細な掛け合いから燃える演出まで、見事にVS作品のお約束を網羅していた。正直語りだすとキリがないので、感動した部分のいくつかを書いていく。

 

 

スパーダの扱い

これは絶対に触れなければならないだろう。キュウレンジャーのカジキイエローことスパーダ。一流シェフという立ち位置でいつもキュウレンジャー達に料理を振る舞う陽気な頼りになるお兄さんで、やけに声が高い(回を増すごとに高くなる)というキャラなのだが、いかんせんそれだけなのである。彼がどういった背景を持って料理人を目指し、キュウレンジャーに加わったのか、そういった芯の部分はほとんど触れられることがなく、単独メイン回も全48話のうち1話しかなかった。しかもその回もキュウレンジャーの人数を逆手に取った野球回で、ゴレンジャーオマージュまでやってしまうのだからスパーダの影は薄くなる。さらに言えばノーコンのスパーダが頑張るだけの話なので、過去や来歴に触れるようなことは一切なかった。しかし、何故かハミィから慕われ、ラプターには好意を抱かれており、伊理竜シェフになり店を構えるという大きな夢を持っているスパーダ。キュウレンジャーは設定だけに終わってしまった残念なメンバーが何人かいるが、中でも最も不遇だったのが彼だろう。

そんな彼がこのルパパトキュウで、かなりの存在感を見せつける。声の高さは言うまでもないが、それ以外の場面で、である。スティンガーとハミィと一緒にカレーを食べるシーンやホシ☆ミナトのギターを追う場面など、コメディリリーフなシーンで、おそらく演じる榊原徹士のアドリブだとは思うのだが、やけに喋る喋るつっこむつっこむ。普段は料理に例えないと言葉を発せない彼の、なんとなく素が見えたような気がして嬉しくなるシーンであった。ロボ戦の途中ではルパンブルーに「声が高い」と指摘されており、1年間ネタにしてきたこちらとしては「ついに言及された!」と念願叶ったりである。

更に言うと、パンフレットの榊原徹士インタビューの欄に驚きの情報が書かれていた。なんと、ルパパト撮影前にキャラづくりに悩んでいた透真(ルパンブルー)役の濱正悟に対し、「声をゴリゴリに低くしてみれば?」と彼が助言したのだという。ルパンブルーの名乗りがスパーダとは対照的に回を増すごとに低くなっていったのはファンの間では有名な話だが、まさかその原因がスパーダにあったとは……。

 

怪盗と快盗

キュウレンジャーとルパンレンジャーの共通点としては、やはり怪盗(快盗)であることが挙げられるだろう。キュウレンジャーの二人、ナーガとバランスはキュウレンジャーになる以前は怪盗として活躍していた。そして次回作が快盗戦隊ルパンレンジャーという流れ。コラボするとなれば、この二組が絡むのは当然ともいえるが、その共通項と相違点、そして互いの絆の描写が個人的にはとても心に響いた。BN団は怪盗であると同時に救世主でもあり、怪盗として培った技術や絆をキュウレンジャーに加わって以降も応用していった。それに対してルパンレンジャー3人は、大切な人を取り戻すことが目的なのである。だからこそ国際警察と対立することになり、そうした”歪んだ方法”しか取れない自分たちに引け目を感じている。この2組が衝突するようなことはなかったが、些細なセリフからそういった違いと各キャラクターの信念を浮き彫りにする手腕はさすが荒川脚本。そしてこれは1年間かけて魅力的なキャラクターを育て上げた香村脚本の素晴らしさにもつながると思う。

 

キュータマダンシング

前述の通り私はルパパトを傑作だと感じているが、敢えて欠点を指摘するのであれば、エンディングがなかったということである。スーパー戦隊のエンディングはどんなにシリアスな局面があろうと突然ダンスが始まることで有名で、そのテンションの差やキャストの初々しい踊りを楽しみにしているファンも多いと思われる。しかし、ルパパトにはそれがなかった。シリアスな物語だったからというのは言い訳にならない。なぜなら過去に多くの戦隊が最終回寸前だろうとエンディングダンスに持ち込まれてしまっていたのだから。『特命戦隊ゴーバスターズ』もかなり物語が重苦しかったが、ラストには必ず司令官のキレッキレのダンスを拝むことができた。それは今放送中の『騎士竜戦隊リュウソウジャー』も同様である(リュウソウブラックのバンバ)。しかし、ルパパトはなぜか頑なにダンスを拒否した。その弊害により、無口な二枚目キャラの透真がエアロビを踊らされる始末。エンディングダンスを削るというのがどれほどの被害をもたらすのか、制作陣も身に沁みたことだろう。

そして、満を持してのキュータマダンシング。1年かけて積み上げてきたキャラクターを全く意識させない見事なダンシングだった。もちろん既にYouTubeで屋上で踊る姿などを観ることができるのだが、スクリーンで20人が一斉に踊る豪華さとは比べ物にならない。しかもエアロビ姿まで披露させてしまうサプライズ付き。このダンスだけで鑑賞料金分の価値は十分にある。いや、むしろ元モーニング娘。と元うたのおにいさんがメンバーにいながらエンディングをカットしたのはどんな意図があったのだろうか。来年に公開されるであろう『リュウソウジャーVSルパンレンジャーVSパトレンジャー』でも彼らがケボーンダンスを披露してくれることに期待。

 

 

 

まとめ

総じて、本当にVSシリーズらしい作品になっていたと思う。キュウレンジャー本編では説得力を持たなかったラッキーの言葉が、朝加圭一郎という巨大なスポンサーの存在によって魅力的に聴こえてくる。大嫌いだったはずのキュウレンジャーを自然と受け入れられている自分に気づき、改めてルパパトの物語の深味を感じた。テーマの掘り下げではなく、あくまでキャラクター同士の掛け合いや共闘、面白いorカッコいいor驚きのシーンに注力した構成。逆に言えば、ルパパト本編が構成の巧みさゆえに失ってしまったスーパー戦隊らしい輝きを、敢えて前面に押し出した作品ともいえる。ルパパトでありながら、いつもとは違った側面の彼らを楽しめたという意味で、本当に素晴らしい作品であった。当然Blu-rayも買わせていただきます。

 

 

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