パペットとは指人形を指す言葉で、操り人形と指人形を兼ね合わせたものはマペット(マリオネット+パペット)と言うらしい。つまりパペットマペットには意味合いとして、指人形が2回と操り人形が1回入っていることになる。しかも実際にはウシくんとカエルくんを手に装着しているだけなのでパペットでしかない。令和に入ってまさかパペットマペットの真実を知ることになるとは思わなかった。
マペットという技法はセサミストリートの生みの親であるジム・ヘンソンが開発したものなのだが、彼の息子であるブライアン・ヘンソンが父親が創作したシステムを使って好き放題やった作品が、この『パペット大騒査線 追憶の紫影』。紫影は、「パープル・シャドー」と読む。パッケージとタイトルから何となく察しがつくと思うが、邦題は『踊る大捜査線』と『名探偵コナン』の劇場版シリーズのパロディになっている。しかし、日本の宣伝が好き勝手やっているだけではない。この映画自体、パペット(マペット)といえば子どものものという固定観念に、ド下ネタのオンパレードで殴りかかる問題作なのである。やり口としては『ソーセージ・パーティ』に近い。
人間とパペットが共存する世界を舞台に、とある街で起きた連続殺人事件を追う2人の物語。胆力のある人間の女性刑事・エドワーズと、その元相棒だった青いパペットのフィルが、再度バディを組んで事件の真相に迫っていく。パペットと人間が共存しているってどういうこと? と不思議に思うかもしれないが、NHKのEテレでやっているような手法をセットではなく実際に外で撮影しているというニュアンスでOK。エンディングではメイキングシーンも観ることができ、そこではCG処理のために緑色の全身タイツを着たパペット操者たちの苦労が伝わってくる。
パペットと人間が共存していてしかも下ネタのオンパレード、その上強気な邦題とくれば確かに話題にはなりそうな本作。実はあまりのくだらなさに批評家のコメントは辛辣な言葉で埋め尽くされ、おまけに『セサミストリート』の製作会社から訴訟を起こされてしまうという悲劇にまで見舞われた。結果的に訴えは退けられたものの、開き直って訴訟を起こされたことまでネタにする始末。ここまでイカれた映画を作る人たちはどこかネジが外れているのである。
とまあ悪名高い本作なのだが、いざ鑑賞してみるとこれがどうにも面白い。中身はくだらなすぎるのだけど、パペットだからこそできる下ネタ表現に果敢に挑戦していっている辺りは感銘を受けるし、何より人間とパペットが共存しているという特異な世界観が見事に練り上げられていることに感動する。話の筋は読めてしまうのだが、それでも作品のオリジナリティで期待させてくれるのだ。高尚な映画を好む人にとっては下劣な品性に怒りを覚えるかもしれないし、『セサミストリート』に愛着のある人は殺意まで込み上げるかもしれない。しかし、下ネタが酷いのはともかく、パペットと人間界を融合させた技術や勇敢な姿勢にはやはり感服させられてしまうのである。
ストーリー(ネタバレあり)
フィルの兄(パペット)や元妻のジェニー(人間)も出演していた人気番組、「ハッピータイム・ギャング」の出演者たちが次々と殺される事件が起こる。以前に犯人を撃とうとして失敗し、道行く一般人を殺してしまった結果警察からの信頼を失い、パペットの登用を廃止するきっかけとなってしまった元刑事で探偵のフィルは、元相棒で人間のエドワーズと共に事件を捜査することに。次々と殺されてしまう出演者たちだが、常に犯行現場にいたことからフィルは犯人にされてしまう。その上、フィルに依頼してきた女性が、「彼が犯人だ」と証言してしまう。彼女の正体を訝しんだエドワーズが捜査すると、実は過去にフィルが殺してしまった男性の娘だったことが分かる。彼女は復讐のためにフィルを犯人に仕立て上げようとしていたのだった。自家用機で海外に逃亡しようとしていた彼女を止めるため、脱走したフィルとエドワーズは滑走路へ向かうも、彼女の罠にはまってしまう。エドワーズは銃を突き付けられ、過去と同様のシチュエーションで犯人を狙うフィル。最後は的を外さず、見事犯人を撃ち抜く。フィルとエドワーズの関係も元に戻り、物語はハッピーエンドを迎えた。
感想
会話は下ネタ連発だし、演出も相当酷い。パペット同士の性交なんて人生で目撃することになると思わなかったし、マヨネーズ1本分レベルの射精で部屋を汚すなんていうオチは見たくはなかった。パペットだから女性の下の毛も出すことができるし、犯人にたどり着いたキッカケが「頭の毛と下の毛は同じ色」なんて、完全にイカれている。実写なら無理ですけど、パペットだから大丈夫なんですよーと全く反省の色が見えない姿勢が馬鹿馬鹿しすぎてハマってしまう。しかも下ネタだけではなく、犬に四肢を千切られるなどのグロ描写ももちろんオーケー。なぜならパペットなので。
それでいて、パペットが死ぬと綿が弾ける演出だったり、パペットが人間に「踊るだけの奴ら」と差別されている世界観だったり、パペットにとってのヤクが砂糖という設定だったり妙にリアルな部分があって侮れない。トロールを狩る人物を描いた『トロール・ハンター』というモキュメンタリー作品があって、私はその映画が大好きなのだが、この映画にもそれと同じぐらいの緻密な世界観の構築具合を感じる。『トロール・ハンター』も山トロールと森トロールという種族分けや、キリスト教徒を襲うという細かい設定がとてもハマったのだが、この映画のパペットもそういった特殊な設定が楽しい。
「パペットの裏社会」を描くとしたらきっとこうだよな、という部分を極限までに高めていて、感動してしまう設定がいくつも散りばめられている。確かに中身は下品極まりないのだけれど、画面の隅々まで楽しませてくれる構図がサイコーなのだ。パペットと人間のバディものという意味でそれなりに話題になっているし、今後もティーンの間で流行りそうな作品だが、ぜひ次回作をと思ってしまう。こんなに緻密に設定を練り込んでいるのにこれ1作きりではあまりに勿体ない。