映画『パージ』ネタバレ感想・評価! 抑圧された感情が解き放たれる恐怖

 

パージ (吹替版)

 

犯罪防止のため、年に1度だけ犯罪が許される12時間・パージが行われるという恐ろしい設定で現在映画3作とTVドラマまで作られている大人気シリーズ『パージ』。パージ(purge)とは、英語で一掃や粛清という意味を持つ単語だが、この映画では”浄化”という意味でも用いられている。今月には4作目にあたる『パージ・エクスペリメント』が公開されるようで、シリーズ未見だった私もこれを機に手を出してみようかとNetflixを開いた。

様々なレビューを見るに、一作目は賛否両論あったようなのだが(おそらくは人気シリーズが故に評判が独り歩きしたということもあるのだろう)、私としては大いに楽しむことができた。傑作とまではいかないが、突飛な設定をうまく物語に昇華し、きちんとテーマを提示していることは大いに評価できる。特に90分という尺がちょうどいい。

 

正直観るまではもっとヒャッハーした映画だと思っていたのだが(要するにバンバン人が死ぬバカ映画だと思っていた……)、映画で語られる内容は意外にもクレバー。冒頭のパージという設定を説明する時点で、既に社会格差の問題にも触れられており、犯罪抑止ではなく実質は社会的弱者を狙った口減らしなのではないかという意見が提示される。そして、この映画で主人公一家を襲う集団こそ、富裕層であることを誇り、社会的弱者の存在に苛立ちを感じている傲慢な人間たちなのだ。殺人の合法化というとんでもなく不謹慎な設定故に、どこまでもバカ映画になれるポテンシャルがありながら、きちんとした視点で物語が語られるところに好感がもてる。

 

パージ当日の夕方くらいから物語が始まり、人間関係がざっと提示されるのもとてもいいテンポ感。近所の人たちは明らかに主人公たちを快く思っていないなーとか、娘の恋人もしやパージを利用する気では、とか様々な妄想が既に捗る。そういった不安がちゃんと伏線として機能している上に、現実社会の恐ろしさを思わせるあたりが巧い。「もし年に一度、犯罪が合法化される社会ができたら」というとんでもないシミュレーションを丁寧に紡がれている。まあ、設定自体が突飛なことに引っかかってしまうと楽しめないかもしれない。

 

そして、話の内容は意外にもチープ。登場人物も必要最低限だし、物語の舞台はほとんど主人公の自宅(といっても金持ちなのでかなり広い)。最初に息子が助けたホームレスが家の中で消えたとか言われた時は、家の中で人見つけられないって何だよ…と思ったが、そのアホみたいな家の広さが裏目に出てしまう展開も素晴らしい。そして現れる富裕層の面々。ホームレスを引き渡さなければ家族を皆殺しにすると主張し、一家の主である父親は家族を守るために彼を引き渡そうとする。しかし、娘は父親を殺そうとした恋人が返り討ちに遭って死んだことを引きずっているし、母親は自分たちが助かるために他人を犠牲にすることに迷いを感じるし、息子は一心不乱にホームレスを救おうとする。みんな大きい声を出すタイプではないために、展開自体は大きく動かないものの、家族がしっかりと自分の思惑で行動するため、キャラクターが生き生きとして見える。

 

結局家族間のゴタゴタで時間内にホームレスを引き渡せなかったため、富裕層の殺戮集団が家に押し入ってきてしまう。営業マンのくせに何故かめちゃくちゃ強い父親が奮闘するものの、スキを突かれてナイフを腹に刺される。母親が今にも殺されるかと思われた瞬間、彼らを救ってくれたのは近所の住人たちだった。しかし、彼らの本当の目的は一家を救うためではなく、気に入らない一家を殺すため。父親が死んでしまったために、残りの三人を始末しようとするが、そこにホームレスの男が現れ、三人を救う。近所の住人を殺そうとするホームレスを母親が必死で止め、パージの夜が終わるのを待つ。

 

正直、近隣住民が明らかに怪しいことも、その後にホームレスが助けに来てくれる展開も見え見えである。「よっ、待ってました!」と言わんばかりの絶妙なタイミングに思わずヒーロー映画かと疑ってしまうほどだ。それでもこの映画をホラー映画たらしめているのは、やはり人々が野生の牙を解放するという恐怖だろう。年に一度でも犯罪が合法化されれば、友達も恋人も近隣住民もクソもない。私たちは他人を一生信用することなく生きていく羽目になる。そんな中で、決して人を殺さないと誓った母親がその意思を貫き、家族を守るためとはいえ殺人を犯した父親が死亡するという構図は非常に美しい。また、殺しはしないが痛めつけることはするという母親のちょっと躊躇しない感じも妙にいい味を出している。

 

総じて言えば、ホラー映画的な恐怖を得られる映画ではないのかもしれない。怪物も出てこないし、恐ろしい殺人鬼も登場しない。だが、それこそが恐ろしいのだ。普段は普通に生活している人々の狂気がパージによって露わになるという観念的な恐怖がこの映画には宿っている。90分という短い尺で見事に展開し帰結した物語。続編ではパージの謎などにも迫っていくというのだが、この設定なら登場人物を変えて永遠に展開できる予感がする。『SAW』シリーズのように、息の長いホラームービーへと成長するのだろうか。

 

パージ (字幕版)

パージ (字幕版)

 

 

 

ソウ (字幕版)

ソウ (字幕版)

 

 

 

 

 

 

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