2019年もいろいろありました。新元号が発表され、平成が終わり令和が始まる。その変化により、「平成ライダー」の歴史に幕が下りるのも必然のこと。8月に平成ライダーは終わりを迎え、9月1日から令和ライダー第1作目『仮面ライダーゼロワン』がスタートした。と言っても毎年仮面ライダーを観ているこちらからすれば何が変わったというわけではなく、単純に括りが新しくなっただけ。でもこれまで仮面ライダーを観てこなかった人、気になってはいたけどどれから手をつけていいか分からなかった人にはとても良い入り口だと思う。やけに宣伝した「令和ライダー1号」という肩書きは新規層を取り込む意味が大きいのかもしれない。とにもかくにも、仮面ライダーシリーズはいつの間にか日本で最も元号を意識するコンテンツになっていたのである。
放送中の『仮面ライダーゼロワン』は未だに根強い人気を誇る『エグゼイド』のプロデューサー・脚本コンビが再びタッグを組んでいる。脚本が高橋悠也ワンマンだったエグゼイドとは異なり、『W』の三条陸や新規参戦の筧昌也も加わり話がよりバラエティに富んでいる。また、『ルパパト』で見事な手腕を披露した杉原輝昭監督がメイン監督に抜擢。本作『令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』は『ゼロワン』のメイン監督・脚本の杉原・高橋コンビに依るものである。体裁としてジオウとゼロワンのコラボを謳ってはいるものの、実際はジオウ3割・ゼロワン7割くらいの構成。私としては『ジオウ』の物語(平成ライダーの物語)は最終回で綺麗に閉じたと思っていたので、この比率はとても良かった。無理してソウゴ君を追い詰めるような強敵を出してくるくらいなら、むしろゼロワンに特化した作りの方が嬉しい。ただオマケ程度ではなく、きちんと物語に絡んでくる辺りが如何にもジオウらしい。ジオウ本編はソウゴ達がレジェンドに絡んでいく物語だったが、今作はそれがゼロワン視点で進んでいくような上手い構成になっている。ジオウの物語をこれ以上膨らませるのは無理があるという諦観的な意味もあるのだろうが…。
今回の目玉は突如現れた新たなタイムジャッカー・フィーニスと、彼女の手によって生み出されたアナザーゼロワン。更に或人の父親・其雄が仮面ライダー1型に変身し、それに対抗するため或人がフォースライザーを使って仮面ライダー001に変身する。フィーニス役は元乃木坂46の生駒里奈。或人がフォースライザーを使うのはこの時期特有のクリスマス販促の影響が強いだろうが、玩具に興味のない人間からしても敵のベルトで主人公が変身する展開は嬉しい。後は記憶を取り戻し再び戦いに身を投じることとなったジオウ組であったり、或人の過去であったりと、例年のように情報量の多い冬映画となっている。
そんな本作だが、結果としてはゼロワン好きならきっと満足できる内容。或人と其雄の物語に比重が置かれつつ、ライダー映画の十八番・歴史改変によってジオウとゼロワンの歴史が重なり、共闘へと持ち込んでいく流れが完全にシームレス。「令和ライダー? 甘ったれないでよ」とソウゴ君が笑顔でゼロワンに襲い掛かってきたらどうしようと危惧していたが杞憂に終わってホッとしている。予告ではジオウとゼロワンが殴り合うシーンもあったのだが、この見せ方は非常に巧かったですね。
ただ、高橋脚本の真骨頂はやはり連続ドラマによって少しずつ明かされていく謎と発展していく人間関係にあると思うので、約90分の映画としては物足りなかった印象。ただこれは『平成ジェネレーションズ』の1作目でも感じており、身構えていたことなので特に問題なし。ただ、衝撃の事実とかを楽しみにしていると少し気落ちしてしまうかもしれない。ゼロワンだからこそ楽しめたが、なんてことはない父子のドラマです。
或人が目覚めると世界がヒューマギアに支配されており、不破と唯阿は人間側の指導者として戦っていた。ヒューマギアをぶっ潰すという不破さんの怒りが自分本位なものではなく、完全に正論になっているのが面白い。アナザーゼロワンとなった一方のジオウ組も平和な学生生活を送っていたはずが、教室に入るとヒューマギア達に襲われてしまう。何がなんだか分からない3人の前にウォズが現れ、独立させたはずの仮面ライダーの世界が再び融合を始めていると知らせる。そう、タイムジャッカーの仕業である。ウォズが持つ真逢魔降臨歴によると、始まりのライダーがその鍵を握っているらしい。そこで彼らはそのライダーに接触を試みる。
ジオウ組はあくまでゼロワンの戦いに介入してくるだけで、本編にガッツリ関わってはこないのだけれど、そこはやはり1年を共にした仲間。彼らがスクリーンの中にいるというだけで妙な安心感がある。ただ映画を通してウォズの「祝え!」がなかったのは残念。一方のゼロワン組、人間たちの隠れ家がヒューマギアに襲撃されこれを迎え撃つもアナザーゼロワンと滅・迅の参戦により窮地に陥る。ゼロワンドライバーを奪われ変身できない或人の前にフード付きマントを着用しまるでジェダイのような風貌のマスター・其雄が現れ、フォースライザーを渡す。或人はそれを使って仮面ライダー001に変身し、アナザーゼロワンと再度戦う。そこにジオウ組も参戦し、或人と共に過去へ行くことで一時休戦。
その後も其雄のジェダイ化は解けないのだけれど、そこまでして姿を隠す理由もないし、ただかっこつけていただけなのだろうか。或人にバレないためだと思っているのなら、息子を子ども扱いしすぎである。新旧ライダーが邂逅するシーンの巧さはさすがベテランの高橋脚本。平成ジェネレーションズ2作品でいくつもの初対面を経験しているだけある。ヒューマギアに支配された世界は『パラダイス・ロスト』感がありますね。スープのお代わりを要求する奴がいなくて本当に良かった。あの映画から16年が経過しているため、映像のリアリティも段違い。基地の風景には『ウォーキング・デッド』みたいな殺伐とした雰囲気を感じたし、モブキャラもそれぞれ個性が際立っていて良い。エンドクレジット見たら全員にきちんと名前(あだ名)があって、とても嬉しくなった。TTFCの配信とかでいいから彼らのスピンオフが観たい。
過去に行った或人を迎え撃つのは1型に変身した其雄。実は其雄こそゼロワンシステムを作った張本人だったのだ。全てはヒューマギアが笑える世界を創るため。しかしこれはミスリードで、終盤には或人の「父さんを笑わせる」という夢を叶えるためにヒューマギアも人間も守れるゼロワンシステムを開発していたことが分かる。といっても、このミスリードはあまり引きずらないので観客はあっさり気づく。『エグゼイド』で言うゲンムの正体誰だろう、みたいなものである。むしろ危険なのは其雄と仲のいい社長秘書のウィルの方であった。彼は人間に支配されている状況に疑問を感じ、是之助にも警戒されていた。しかし、そこにフィーニスが現れ、彼をアナザーゼロワンにしてしまう。ツクヨミは是之助たちの会話から衛星アークの打ち上げこそ歴史を変える分岐点だと気づき、ジオウ組と或人は衛星の打ち上げを止めるべく動き出す。
まるでウェディングドレスのようなベールの長さを誇るフィーニスの衣装。冬場でも袖すら与えられなかったスウォルツ氏とは大違いである。さすが元アイドル。ジオウ本編でタイムジャッカーなどそもそも存在せず、王家の長男であるスウォルツがウールやオーラに力を与えていただけだということが存在したのに、未だに新たに出現するタイムジャッカー。去年はスーパータイムジャッカーという謎の存在も登場していたし、本当になんなのか謎である。正体すら分からないのに時間を止めて歴史を改変するという実力の持ち主。財団Xよりよっぽどタチが悪い。ジオウ達も「タイムジャッカーの仕業か!」とあっさり結論付けていたが、ジオウの設定はコロコロ変わるので細かいところを気にしていたら先に進めない。その時その時の時代を必死に生きるのが平成ライダーだ!
1型と戦うもアナザーゼロワンの乱入で親子ケンカが台無しになり、衛星も打ち上げられてしまう。ジオウはフィーニスと接触するも、彼女はアナザー1号となり襲い掛かってくる。別に1号が出てくるわけでもなく、ジオウが集めた平成ライダーの力を奪ってアナザー1号のライドウォッチが誕生する。設定をどうこう言っても始まらないのがジオウである。アナザー1号に対して「仮面ライダーに原点も頂点もない!」とソウゴ君が言い切ってしまうのは、『Over Quartzer』大好きな私としては感無量でした。平成ライダーに四の五の言うアナザー1号に、必然的にISSAが重なる瞬間。どんなミラクルも起き放題。
結局過去を変えられなかった彼らは現代に戻る。イズが攫われたことを知った或人は飛電インテリジェンスに乗り込み、株主総会に乱入。そこで彼が掲げるヒューマギアと人間の共存という夢が、株主(ヒューマギア)たちの心を動かす。イズが自分の夢は或人の夢を傍で見届けることと表明する流れはいいですね。お前は社長秘書の鑑か。賛成票が次々と投じられていくものの、過半数には達せず。そこで立ち上がるマスター・其雄。彼は大株主のため、賛成すれば一気に形成が逆転するという。其雄を倒し、真のゼロワンとなるため、或人は再び1型と戦う。ここから最終決戦に流れ込んでいく。
滅亡迅雷の2人はゲイツ・ウォズ・ツクヨミとバトル。今回、アナザーゼロワン=ウィルが首謀者のため、彼らは良き部下として描かれるに留まっている。普段の2人とはまるで異なるファッションが拝めて嬉しい。それでもどこか中二くさいのはお約束。迅、足が長すぎて完全に持て余している。アナザーゼロワンと戦うのはバルカンとババルキリのーエイムズコンビ。大好きなゴリラにもならず強化形態のアサルトウルフにもならず、バルキリーとの連携だけで強敵との戦いを乗り切った不破さん。アナザーライダーは対応するライダーの力、もしくはジオウⅡやトリニティでしか倒せないというルールはこの映画には存在しない。
其雄と激闘を繰り広げ、ライダーキックの相打ちを見事に制した或人は、其雄の真意を知っていたことを伝え、戦場に赴く。父を想う子の気持ち、この映画のドラマパートのクライマックスでもある。ラスボスはもちろんアナザー1号。長らく乃木坂46でセンターを務めていただけあって、やたら1号だの初代だのという肩書にうるさい。グランドジオウに変身しゼロワンと共に戦うが、ソウゴはアナザー1号がゲイツのタイムマジーンを体内に取り込んだことに気づく。そのせいでフィーニスが未来からやってくることになり、歴史が変わってしまったのだ。つまりここでアナザー1号を倒せば歴史は元に戻る。最後は冬映画お馴染みダブルライダーキックでトドメ。
高台から元に戻った世界を見渡す或人とジオウ組。そこでソウゴが、或人に自分たちとの記憶が残っているのはまずいんじゃないかと発言し、記憶を消すためにゼロワンと衝突。ここが予告にもあった殴り合いのシーン。それぞれ記憶を失った2人。ソウゴは元の学生生活に、或人は社長生活に戻り、世界は平和を取り戻す。エンディング中の不破と唯阿の会話が不吉すぎる。最後は最早恒例行事となった新ライダーお披露目で完。
映画の流れは大体こう。
ここからは好きだったシーンをひたすら羅列していく。
最初の変身の気だるそうなウォズと2回目の戦いの生き生きとしたウォズ。全く言うことを聞いてくれないソウゴ達に手を焼く「やれやれ」というフレーズと、ゲイツやツクヨミと再び戦えることが嬉しくてたまらないというあの笑顔。ジオウの歴史が変わってただの見届け人になってしまった彼の心情を思うと心が痛む。
ジオウトリニティでの3人同時に「変身!」の掛け声。これ本編では意外となかった気がする。トリニティってゲイツとウォズを強制的にソウゴの中に取り込む面白さが先だってギャグ的な使われ方ばかりでしたからね。久々にジオウメンバーと会えたのも相俟ってテンションが上がった。あと、ジオウの強化形態を全種類出してくれたのも嬉しい。
人間VSヒューマギアの基地での戦闘シーン。今回本当にアクションに気合が入っているというか、『ルパパト』以来、杉原監督の映像が大好きなんですよね。魅了されっぱなしでした。ゼロワンの1話2話でも感動したけど、映画では更にパワーアップしている。運転しながら銃をぶっ放す唯阿さんの素晴らしさ。普段は走ったり飛んだりで忙しい唯阿さんが、凄腕スナイパーになっているの、感動しかない。あとパンツの色がベージュなので何も履いてないように見えてしまうのが気になってしょうがない。不破さんの銃の撃ち方・構え方・そこから繰り出す攻撃も満点。後は刀を構えて銃弾を割る滅。さっきも書いたけど足を持て余している迅。
終盤のジオウ組による生身アクションもよかった。空手をやっているゲイツの殺陣は言わずもがな。時を止める能力を使いこなし歴代最強のヒロインと化したツクヨミ。未だに何なのかよく分からないマフラーで相手を圧倒するウォズ。逆にこれ本編で何故なかったんだろうか。ソフト化されたらここを永遠に観たい。
以上、好きなシーン。
全体的にはかなり満足で、映画ならではのお祭り感が非常によかった。毎年のことだけれどテレビ本編が終了した面々に再び会えるのは素直に嬉しい。特にジオウは久々に楽しめた作品だったので尚更。Vシネの『仮面ライダーゲイツ』も楽しみである。ドラマパートにはもっと衝撃の展開が欲しかった気もするし、予告では敵とも思えた其雄が結局ただのいい父親でしたで終わってしまうのはちょっと物足りなかった。或人が何故ヒューマギアを父さんと呼ぶのかも、幼い頃に死んだ実の父親の代わりをしてくれたというだけで解決してしまったし。
ただ、それ以上にアクションがサイコー! 杉原監督は我々の期待を裏切らない。私はワイヤーアクションとエロ目線ばかりの坂本監督や、映像をどこか蠱惑的にしようと企む上堀内監督の演出が性に合わなかったので、杉原監督のシンプルかつ洗練された演出には惚れ惚れしてしまった。柴崎監督と並んで大好きな演出家かもしれない。
総じて言うと、ジオウの物語とゼロワンの物語どちらにも支障をきたさない程度&観ておくといろいろ楽しめるというちょうどいい塩梅になっており、令和1年(平成31年)を締めくくる映画としてはとてもよかった。来年は1000パーセントでよろしくお願いします仮面ライダーゼロワン。