デカデカとジャケットに書いてあるように、「あおり運転した相手がイカれたサイコパスだった!!」というだけの作品。日本では以前に逮捕者も出たりと、何かと世間を騒がせるあおり運転だが、どうやら海外でも問題視されているようだ。本作は主人公一家が父親の実家へ出かける際のドライブで出会ったスピードの遅い車をあおってしまったことで、惨劇が始まる。映画秘宝で言う「ナメてた相手が実は〇〇でした」系の作品ともいえるだろう。
主人公であり一家の大黒柱でもある父親のハンスは、実家への出発が遅くなったことに苛立ちを募らせていた。そんな中、前方をゆったりと走行する白いバンに怒りを覚え、あおり運転をしてしまう。結果的に追い抜くことに成功するものの、追い抜いた際にバンの運転手である老人に挑発的なポーズを取る。すると、追い抜いたはずの白いバンがどこまでも彼を追ってくるのだった。というのがあらすじ。この白いバンを運転している老人が交通ルール絶対遵守&破った相手には何をしてもいいと考えているサイコパス野郎で、1回のあおり運転が家族を惨劇へと導いてしまう。ただこの映画更に恐ろしいのが出てくる人物全員がうざったくてうざったくて…。
話の通じないサイコパスジジイは当然として、主人公のハンスもかなり短期な性格。そりゃあまあハンスが最初にあおり運転さえしなければ何も起きなかったわけで。しかもバンと出くわす前にも既に車の中で子どもたちに向かって「うるせえ!」と怒鳴り散らしたりなどもう最悪のパパ。まあイライラしちゃうのは分かるのだけれど、家族でドライブというシチュエーションにここまでリアル持ち込まれるとガチでキツい。ジジイを挑発するところなんかは見ていられない。で、その挑発を止めたりと助手席に座っている妻は唯一の良心かと思いきや、ジジイとのカーチェイスで運転する羽目になった際にとんでもない運転をする。子どもが駆け回る住宅街を危険な走行で逃げ回り、何度も人を轢きそうになるが、夫が止めてもパニックになって言うことを聞かない。娘二人は可愛らしいのだけれど、それでもゲームの取り合いだったり必要以上に騒いだり悲鳴を上げたり泣き出したり…。ホラー映画によくいる「イライラさせてくるキャラクター」を総登場させてしまうというとんでもない作品。
ただ、映画としては低予算なんだろうけど非常に緊迫感があってこれがなかなか楽しめた。防護服を着て謎の液体を散布するジジイのビジュアルが最高だし、何を言っても話の通じない狂気が本当に怖くて怖くて。接客業をしている方は分かると思うのですが、こういう人って本当に世の中にいるんですよね。あおり運転を謝れと言われて謝らないハンスもハンスなんだけど、謝った後で「タイミングを逃した」とか言って全く許してくれないこの感じ。「子どものしつけがなってないのは親の罪だな?」と訊ねてハンスの両親までも襲ってしまってオッケーというとんでもない自分ルール。この映画で何回も出てくる重要なセリフが「お前が決めることじゃない」というものなのだが、これは勝手なルールを作り行き過ぎた正義を執行する恐ろしい男の物語であることを象徴しているのかもしれない。
その「行き過ぎた正義」の物語としても最高で、ジジイは完全なるサイコパスなんだけど、自分なりに判断基準があって襲う相手とそうでない相手を区別しているのがちょっとダークヒーロー味があってかっこよくなってしまう。やってることは普通に犯罪なのだけど。最後に娘二人にわざわざ「君たちに罪はない」と声をかけるの、ちょっと惚れるもんね。ハンスは悪いし暴走した奥さんも悪いしハンスをこんな風に育てた両親も悪いけど、生まれてきた娘たちには罪はないという。なんという自分ルールだ。
そしてこのジジイ、サイコパスが故に言動もいちいち面白くて。「これがあの男をもうけたベッドか?」とか、「夫は子どもを作ることを承認したのか?」とかババアとはいえ平気で女性に訊いちゃう辺りがサイコー。要は自分ルールの範疇かどうかを定めるための確認なのだけど、だとしても行き過ぎだよね、と。悪人を裁くためなら相手のスマホを盗んでもいいしパスコードを勝手に解除してもいいし実家の住所を特定してもいいという謎ルール。他のキャラがただ「イライラさせる」ことを重視しているせいで、感情の動きがなく基準で物事を見定めようとするジジイがまだ良心的に見えてしまうのがこの映画の怖いところ。
バンがずっと尾けてくるシーンも車がぬかるみにハマって動けなくなったところにジジイが迫ってくるシーンも自宅での決戦も全て緊迫感が抜群でスリラー映画としては結構いい出来具合。ただ、やはり登場人物へのイライラが激しいのでその辺が許容できない人は嫌悪感を覚えるかもしれない。確かに序盤であおり運転をする必要があるのでハンスがクズなのは仕方ないが、家族単位でここまでヘイトをためるキャラクターにしなくても…とは思う。ただ、あおり運転の危険性は十分に伝わる作品なので、教習所でぜひ流してほしい1作!