3月から放送が始まった『騎士竜戦隊リュウソウジャー』も、早いもので今日の放送により1クールが経過した。当初は一話ずつ感想を認めていたのだけれど、結局時間が取れず断念。だが、せっかく4話までは書いたのだからという思いもあって、1クール終了(12話まで)のタイミングで感想をまとめようと考えた。といっても、1クールで物語に大きく区切りがついたかと言えばそうでもなく、ただ三ヶ月分というキリのいい数字でしかない。ゴールド登場のタイミングからが新展開かなという気はするのだが、まあこういう感想は書けるうちに書いたほうがいいので……。
作風~前作『ルパパト』との違い~
1つ前の『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』は、地に足付けたリアル路線の作風で二大戦隊の対立というシリーズ初の試みをキャラクターの内面を掘り下げ関係性を濃密に描くことで実現していた。しかし、噂では玩具の売り上げは芳しくなかったらしい。そのシワ寄せなのか、当初は明らかにパトレンジャー用にと予定されたであろう玩具すらより人気の高いルパンレンジャーの手に渡ってしまうような事態に陥った。人気によって玩具の扱いが変わり、それはストーリーにも影響を及ぼしてしまう。スーパー戦隊シリーズが長寿番組であり、子供向け番組であり、更に玩具等の宣伝番組でもあるという側面が、嫌でも見えてしまう結果となった。しかし、その反面大人からは絶大な人気を誇ったようで、DVD等の売り上げは『侍戦隊シンケンジャー』に次ぐ戦隊史上2番目を誇っているとか。実は私自身もルパパトをシリーズでもかなり上位に思っている。
そんな『ルパパト』の反省からなのか、リュウソウジャーは全く奇をてらうことない王道路線のファンタジー戦隊。しかも4度目の恐竜モチーフ。色分けやビジュアルがキョウリュウジャーに似すぎていて不安もあったのだが、騎士というモチーフがキョウリュウジャーとの差別化を図る重要なキーワードであった。確かに物語が始まってからもキョウリュウジャーを意識している部分が多くみられるが、チーフプロデューサー、メイン監督、メインライター、全員がシリーズ初参加ということもあってそれ相応にオリジナリティーはある印象。ただ、”初参加”というのは逆に言えば経験が浅いということでもあり、リュウソウジャーがつまらないと言われてしまうのはこの辺りにあるのではないかと思う。
キャラクターが薄い
リュウソウジャーの第1話を観て驚いた人も多かったのではないだろうか。ダッシュするキシリュウオーもそうだが、最も気になるのは尋常じゃないほどの展開の早さであった。ドルイドン帰還、設定説明、巨大マイナソー誕生、マスター3人の死亡、ド迫力の巨大戦。これらを30分に無理やり押し込めて怒涛のスピードで演出してしまう。「細けえこたあいいんだよ!」と言わんばかりのその速度に、私たち視聴者の脳には「何かよく分からんがすげえものを観た!」という印象だけが残る。確かに第1話はすごかった。このテンションが続くなら1年間とんでもないことになるぞ、という予感があった。そして、その予感は悪い意味で的中してしまうことになった。
続く第2話もかなり展開が早い。マイナソーは人間から生み出されるという設定が説明され、続く3話ではバンバとトワが登場。マイナソーの親に対する考えの違いから彼らは対立。そして、5話でリュウソウレッドの因縁の敵であるタンクジョウと対決。キシリュウオーミルニードルによって一度はタンクジョウを倒したかのように思えたが、実は生きていた。6話で地震パワーを己のものとしたタンクジョウは、リュウソウジャーに最終決戦を挑む。そこでコウは、戦うのはマスターの復讐のためではなく、人々を守るためだと宣言。騎士竜5体合体のキシリュウオーファイブナイツでついにタンクジョウを撃破した。
要するに、1話~6話で「復讐ではなく人々を守るために戦う」というコウの心情を固め、ヒーローとしての方向性を定める方針だったのだと思う。しかし、早すぎる。完全にハヤソウルである。そもそもタンクジョウへの復讐という概念も5話で対決した際にコウが急に言い出したものである。マスター死亡の次の回では既にケロッとしていたし、その後にはトワたちとの衝突もあった。コウ=復讐者という考え方はまだ視聴者に定着していなかったのである。というか、リュウソウジャーはメインライターの山岡さんのせいなのかキャラづけが圧倒的にヘタで、コウが天然バカ、メルトが知的キャラという使い分けも全く掘り下げられずキャラクター性だけが先走っているような印象を受ける。要はキャラクターが掴めないので、面白いと思えないのだ。
話を戻す。コウの復讐心を改めるという目的ならば、2話や3話辺りでもっとタンクジョウと対決させるべきだったのではないだろうか。普段は天然バカなコウが、タンクジョウにだけは異常なまでの執着を見せるという演出の方が納得がいく。あの5話と6話では、ファイブナイツになったことで力を得たコウに心の余裕ができただけである。そもそも、6話で因縁の敵を倒してしまうというのも早すぎる。まあこれには何らかの意図があるのだろう6話ずつ幹部が交代でもするのかなと思いきやワイズルーはまだまだ健在のようだ。タンクジョウ編として、普通に12話くらいかけてもよかったのではないだろうか。キャラクターや設定の説明、そして玩具の販促までこなさなければならないこの6話までにコウを心変わりさせること自体、無理があったのではないかと思う。
また、コウ以外の初期メンバー、アスナとメルトの二人は異常なまでにキャラが薄い。紅一点の馬鹿力と知的なクールキャラという造形はなされているものの、まるで脚本家の傀儡であるかのようにセリフを発するその姿からは生気を全く感じない。特にメルトなんかは変に頭脳タイプにされているせいで、気の利いたことを言うだけのキャラクターになってしまっている。と思っていたのだが、これに関しては9話と10話でそれぞれ個人回が挟まれたことで少しは解消されたかなと感じている。ただ、この回がどちらもメインライターの山岡さんの脚本でないというのは少し問題だが……。
対する後出しメンバーのバンバ・トワ兄弟は、やはり後から出てきたことが関係してるのか異常にキャラが濃い。そもそも3話~6話が彼ら兄弟の物語ともとれるのだから、必然的にそうなる。何よりバンバ、EDダンスのキレが違いすぎる。マイナソーの親を即殺そうとするその価値観の違いもとてもいい。だが、弟のトワは大した会話もせずにあっさりとコウ達のことを認めてしまう。「俺も感化されたのかな……」と言っていたけれども、正直その時点でのコウ達のどこにそんな可能性を感じるような面があっただろうか。トワの心変わりも、脚本の都合のように思えて全くこちらに響くことはなかった。
また、バンバに関しても最初はマイナソーの親即殺すマンだったのにいつの間にかマイルドになってしまう。むしろ今更人間を殺そうとしたらコントに見えてしまう気さえする。弟のトワをかなり想っているようなので、彼がコウ達の考えを受け入れたことが関係しているのだとは思うが、この辺りも特にエピソードがないので全く分からない。ただ、「家族より大事なものなんてない」など、意味深なセリフを多く吐くキャラクターではあるので、何か秘められた過去があるのではないかなとは思う。今のところは5人の中で圧倒的に好きなキャラ。
キャラクターが薄いことに関して、私は「個人回がくれば解決される問題だろう」と考えていた。そもそもスーパー戦隊は5人(もしくは3人など)が毎回メインを張るような回は少なく、基本は1話で1人もしくは2人に焦点を当てていくのが基本である。だが、リュウソウジャーは敢えてなのか初参加のせいなのか分からないが、何故か5人がそれぞれ出張ってしまう。9話10話でそれぞれメルトとアスナ回がきたことを考えると、5人を平等に演出するというのがメインライターの山岡さんの作風なのだろうか。だが、それでは結果的にキャラクターが薄くなってしまうような気がしてならない。数人サブライターを配置して適宜キャラクターを固めていく方がいいのではないかなと思う。
だが、この5人全員主役という演出はかなり斬新なものであることは確か。例えば11話。最初にディメボルケーノを見つけるのはトワとバンバ。そして、ディメボルケーノの問答に答えるなら一番頭のいいメルトが適任だ、という流れでメルトが問答に答えられず焦るというギャグが挿入される。しかし、最終的にディメボルケーノの心情を知り、彼のリュウソウルを託されるのはコウなのである。従来のスーパー戦隊なら、初っ端からコウが主役の回であったと思うのだが、リュウソウジャーはキャラクターを平等に活躍させる。ただ、それが結果的に裏目に出てしまっていることは否めない。
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シリーズにおける革命
スーパー戦隊では43作のうちで何度も挑戦を繰り返してきたシリーズである。しかし、そんな中でも一定のフォーマットはある。そのフォーマットの1つを崩してきたのがこのリュウソウジャーだ。
その崩したフォーマットとは、等身大戦のカット。従来のシリーズでは怪人を等身大で撃破した後、何らかの理由で怪人が巨大化、ロボ戦に突入というのがオーソドックスな流れだった。『特命戦隊ゴーバスターズ』のように等身大戦とロボ戦を並行して描くことはあったが、”2回戦”という概念はスーパー戦隊の言わばお約束だったのである。しかりリュウソウジャーの怪人マイナソーは、放っておくと親からエネルギーを吸い取り巨大化していくという設定。ようするに倒さずともデカくなるのだ。幹部怪人の介入もなく、ただ放っておくだけで巨大化してしまう。これにより、リュウソウジャーは等身大で怪人を撃破する必要がなくなった。本質的にはマイナソーの親のためにも人々のためにも、等身大のうちに撃破できるのが理想だが、今のところほとんどの回でそれは叶わず、マイナソーが巨大化したころにようやく彼らは解決法を見つける。
こうなった理由はおそらくロボ販促の強化のためだろう。だが、個人の必殺技を見る機会が減ってしまったのは非常に残念。もしかしたら最強武器なんかも存在しなくなるのかもしれない。これがリュウソウジャー限定の試みになるのか、もしくは次回作以降も引き継がれるのか、その結果はリュウソウジャーが成功するか否かにかかっているのだろう。
こちらの等身大戦カットは、よく指摘されているのだが、私が革命だと思っていることがもう1つある。それが、本作のキーアイテムであるリュウソウルだ。こういった小さなアイテムを武器やロボと連動させた仕組みは数年前から定番となっているが、その多くが「キーアイテムを手に入れていく」というのが主軸だったように思う。キュウレンジャーならキュータマを、ルパパトならVSビークルを集めるのが、物語の推進力であった。しかし、リュウソウジャーにおけるリュウソウルは、騎士竜のリュウソウルこそそのパターンに該当すれど、一般的なリュウソウルは既にリュウソウジャーが使えるという設定。これはかなり画期的なことだと私は思っている。
多くの作品がキーアイテムの販促をするためだけに物語を構築し、結果的にその1話でしか使われないようなアイテムを残してきた。仮面ライダーシリーズなんかはそれが顕著で、フォーゼのアストロスイッチやウィザードのウィザードリング、ドライブのシフトカーなど後々確実に不要になる小物の宣伝のために2話を費やしてしまうことすらあった。だが、リュウソウジャーの戦闘バリエーションは1話の時点で既に多岐にわたっている。7話8話の坂本監督演出で、その設定が見事に発揮されていたのは感動モノである。
腰にあるブランクリュウソウルが、リュウソウジャーが思いを込めることにより各リュウソウルへと変化するという設定らしいのだが(だとしたら2話でコウが間違えて使用したのはなんだったのだろうか)、各々メインで使用するリュウソウルに偏りがあるのも、キャラクターの性格を反映しているようで面白い。また、それがシャッフルされて用いられるのも戦いに変化がついていて素晴らしい。玩具の面でも、特に特定のリュウソウルを強調するのではなく、序盤から多くのリュウソウルを提示しておいて、少しずつ販売するという展開がなされている。事実既に何度か使われているプクプクソウルなんかは、7月に発売されるらしい。もちろん新しい騎士竜が出てくるたびにその見せ場が用意されることになるのだろうが、強化用のアイテムの販促に物語を割く必要がないというのは、非常に嬉しいことである。いやむしろ毎週のように新しい小物を出して適当に活躍させていた数年前の方が異常だったのだろうか……。
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ドルイドン側の体制
スーパー戦隊シリーズは怪人の魅力に支えられていると言っても過言ではない。ヒーロー側だけでなく、怪人側のドラマも作品の魅力の一つである。しかし、リュウソウジャーのドルイドンはどうやら怪人の関係性を書くつもりはないらしい。といっても、リュウソウジャー側も関係性を重きに置いた作風ではないが……。
ドルイドンが再び地球に舞い戻ってきたのは、マイナソーを人間から生み出す技術を手に入れたためであり、それはクレオンが持つ特殊能力である。これがクレオンの先天的なものなのか、それとも改造手術のようなものを受けたのか、そもそもクレオンが何者なのかという疑問は残るが、マイナソーを人間から作れるようになったために戻ってきたという設定は決定らしい。だが、マイナソーよりもどう考えてもドルイドンの方が強いし、タンクジョウだけでも十分にリュウソウジャーを圧倒できたことを考えると、正直マイナソーを生み出す技術の開発を待たなくてもよかったのではないか、とも思う。もしくは彼らが来たことに他の理由があるのだろうか。確かに騎士竜たちに対抗するために巨大なマイナソーが必要なのは分かるが、どうせ最初に神殿を襲う計画ならばいつ来ても同じだったのではないだろうか。
また、私が気になっているのはドルイドンの構成である。マイナソーを生み出せるクレオンは地球に常駐しているとして、何故かその他のキャラクターは1人ずつしか送られてこないらしい。いやむしろ全員でかかってきた方があっさりとリュウソウジャーを倒せると思うのだが……。ここにうまく理屈がつくのか、はたまたなあなあにされてしまうのか。どちらにしても、クレオンと怖い上司という関係性しか生まれないこの構図は、怪人に目が行ってしまう私としては非常に残念でならない。スーパー戦隊の怪人といえば、忠誠とか裏切りとか……そういうのが欲しかった。
総括
おそらくリュウソウジャーはかなり子どもを意識した作りなのだと思う。それはヒーロー特撮では当然のことではあるのだが、前作のルパパトが大人が観ても感動してしまうほどに作りこまれた作品だった。しかし、リュウソウジャーは敢えて子どもが喜ぶ(喜びそうな)方向性へとシフトしている。それは玩具の不振だとかそういった裏事情があるのかもしれないが、私としてはこれはこれでアリだと感じている。
ただ、リュウソウジャーは時折子ども騙しのようなことをしてきてしまう。先に挙げたコウの復讐心であったり、トワの心変わりであったり、心情や人間関係をおざなりにしているような印象を受ける。子どもウケを狙うのは悪いことではない。だが、決して綺麗事を言うだけの機械的なヒーロー番組にはなってほしくないのだ。1話に感じた爆発力も今ではすっかりなくなってしまっている。正直言って、リュウソウジャーにはもうあまり期待していない。だが、それでも観続けてしまうのが悲しき特撮ファンの性なのだ。子ども向けを意識するとは、子どもを喜ばせる以外の意味も持っていると私は思う。提示したいメッセージがあるのなら、しっかりとキャラクターを通して伝えるべきではないだろうか。人を傷つけてはいけないと言うだけの存在なら現実で事足りている。物語としてヒーローを成立させる以上、やはり明瞭なテーマがあってほしいと私は思う。
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