「『ターミネーター2』の本当の続編」と謳われた本作。2003年の『ターミネーター3』、2015年の『ターミネーター:新起動/ジェニシス』に続く、3作目の『ターミネーター2』の続編である。つまりターミネーターシリーズは3作目を境目に3つに分岐しているのだ。非常に紛らわしい。それというのも興行収入の不調が原因で、3部作を予定してたけどスタートでコケたからやっぱりナシでとなってしまっているのである。そして、今作『ターミネーター:ニュー・フェイト』も新たなるシリーズの幕開けとして制作された。しかし、やはり収入は芳しくなく早くもシリーズ存続の危機に立たされているらしい。私が観た回は長らくシリーズを愛し続けてきたであろう年齢のファンたちで埋め尽くされていたのだが…。
そんな評判を先に耳にしてしまったのでどこか不安を抱えながらの鑑賞となってしまった。しかし結果は大満足。『3』や『ジェニシス』よりも楽しむことができた。私はやはり『2』がシリーズ最高傑作だよなと思いつつも、『4』以外はそれなりに好きなライト層なので正直シュワちゃんが出て敵と戦ってくれるだけで満足なのだ。
『2』でサラとジョンが変えたはずの未来。スカイネットは出現しないし、ましてT-800が来るはずもない。それなのに予告では歴戦の猛者となったサラ・コナーの姿がある。逆にジョンの姿はない。謎だらけの予告編だが、リンダ・ハミルトンが再びサラを演じるというインパクトだけで訴求力があるからやはりオリジナルキャストというのは偉大だ。1作目の公開が1984年、2作目が1991年なので、今観るとどうしても古さを感じずにはいられない。ターミネーター初期の2作がSF業界・映画業界に多大な衝撃を与えたと分かってはいても、やはりCG技術や話運びに古めかしさを感じてしまうのだ。そういう意味で、現代の最新技術で続編が作られるというのは作品がアップデートされていくという喜びもある。案の定賛否両論のようだが、娯楽映画としてバランスがいいよなあと私は思った。
本作において提示される謎は大きく分けて3つ。
スカイネットは存在しないはずなのに、何故ターミネーターと再び戦うのか
サラ・コナーはこれまで何をしていたのか
T-800が生きているのは何故か
物語のメインは新キャラのダニーとグレースに変わってしまったが、シリーズのファンからすればこれらの謎は重大な出来事である。1つ1つ解説していきたい。
まず、何故ターミネーターが存在するのかという点について。これに関しては、スカイネットの暴走はサラとジョンが回避したが、リージョンというそれに代わる存在が人類を支配しているという設定だった。『2』での戦いは無駄ではなかったが、それでも新たな敵が現れてしまったということである。そのリージョンが救世主であるダニーを抹殺するためにREV-9というターミネーターを送り込むというのがこの物語の発端。これに対して人間サイドは、改造を施されて強化兵士となったグレースを送り込むことによりダニーを救おうとした。映画では、絶対にダニーを死なせるわけにはいかないグレースの想いが強く描かれる。
次に、サラ・コナーについて。本来ならジョンを産むという彼女の役割は果たされ、スカイネットも存在せずリージョンがダニーを追うのなら、彼女が戦闘に加わる理由はない。だが、REV-9に追われるダニーとグレースの前に彼女は現れる。そこには哀しい理由があった。
実は、『2』のすぐ後にジョン・コナーは未来から送られてきた新たなターミネーター(T-800)によって殺されていたのである。あれほど頑張って守ったジョン・コナーの死から物語がスタートするなんて誰が想像できただろうか。『エイリアン3』もびっくりの鬼畜。ジョンを殺されたサラはターミネーターの脅威がまだ終わっていないことを確信する。その後、サラの元に送られてくる「ジョンのために」と書かれたメールの座標に赴き日々ターミネーターと戦っていた。サラの出演、しかもリンダ・ハミルトンの出演は本当に嬉しいけど、まさかこんなに哀しいキャラクターになっているとは予想外。宣伝ではジョンの死は隠されていたが、これは大々的に取り扱わなくて正解だなあと思う。
最後に、T-800が何故生きているのか。これに関しては単純に別個体ということ。ジョンを殺したT-800が何十年も普通に暮らしていたというわけだ。任務を果たして目的を失った彼は未来に戻ることもできない。そんな彼はある親子と出会い、共に暮らすことで人間の心を知る。息子を殺された(殺したのは自分だけど)サラの悲しみに思いを馳せる彼は、せめてもの罪滅ぼしにサラにターミネーターが出現する座標を送っていたのだ。
正直、どの謎の回答もかなり強引である。『2』で必死に守ったジョンという命と人類の未来、そのどちらもが奪われるという度肝を抜くスタート。「正当続編」を謳っていながらいかにも荒れそうな設定を持ち出すところに面食らってしまう。ただ、スカイネットは崩壊したけど、新たにリージョンが登場するというのは非常にいい設定だったと思う。『2』での出来事を完全に無駄にしないという意味でも、今後の続編が作りやすいという意味でも。また、復讐の鬼となったサラも素晴らしい。久々の復活なのに隠遁生活なんか送っていたら勿体ないからね。ロケットランチャーぶっ放してこそサラ・コナーだ。反対に隠遁しているのはT-800の方。ジョンを殺しているのになんと呑気な。人間と暮らして良心が芽生えたというのは強引だが、ジョン殺害に成功するとターミネーターはこうなってしまうのかと教えてくれたのは嬉しい。
とまあ、『2』からの接続や引き継いだ設定に関してはかなり杜撰な本作。だが、それでも面白いと感じるのは『デッドプール』を監督したティム・ミラーによる、とにかく観客に休憩を与えないハイスピードな展開のおかげである。シリーズお馴染みのカーチェイスと無表情にひたすらターゲットを追い続けるターミネーター。その迫力と恐怖が現代によみがえったというだけでもう十分感激である。前作の『ニュー・フェイト』はターミネーターになってしまったジョンが結構ペラペラ喋ってくるのがあまり好みではなかった。しかし今回のREV-9はT-1000を彷彿とさせる恐ろしさがある。能力はT-1000と大差ないが、人間の姿と金属骨格の2つに分離することが可能で、それぞれが同じ能力を持ち別々に行動できる。つまり片方がヘリを操縦しながら、もう片方が襲い掛かるなんて芸当も可能なわけだ。カーチェイスだけでなくヘリや貨物機でも戦いは続き、そのどれもにきちんと恐怖がある。
要はREV-9の能力に対し、強化兵士とT-800と経験値の高いババアが徒党を組んだところでまるで歯が立たないというのがこの映画の面白さなのだ。ちょっとでも気を抜けば敵に殺されてしまうという恐ろしさは、『ターミネーター』と『ターミネーター2』に通ずるものがある。そういう意味では正しく正当続編と呼べるかもしれない。次から次へと襲い来る怒涛のアクションは、やはり映画館で体感するのがいいだろう。私のお気に入りは最終決戦でのグレースの鎖を使ったバトルである。
1作目の「救世主(の母親)の世にも恐ろしい逃亡劇」という側面と2作目の「ターミネーターと人間の関わり」「ターミネーターVSターミネーター」という構図を踏襲し、メインキャラクターを4人に増やすことによってシリーズをまた新たな段階へと引き上げた。現代でダニーを保護するグレースが、幼い頃に未来のダニーによって命を救われるという、シリーズお馴染みのタイムトラベル的展開もきちんと用意されている。
「正当続編」という謳い文句の通り、『ターミネーター2』と何も矛盾してはいないし、シリーズの核と言うべき要素も盛り込まれている。しかし、やはり『2』の内容を考えるとどうしても些細なことが気になってしまうし、あのハッピーエンド(T-800との別れ以外)からこの絶望的続編を想起するのは無理があるよなとも思う。ただ、設定にこだわらずアクション映画として観ればかなり楽しめることは間違いない。設定でここまで無茶をやったのだから、ぜひアクションに振り切った次回作を観たいところだ。
- アーティスト: サントラ,トライアングルズ,リン・ベン・ヘック,ブラッド・フィーディル,16MM,トーニー・ケイン,ジェイ・ファーガソン
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 1991/11/21
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