映画『テリファイド』ネタバレ感想! アルゼンチンからやって来た傑作ホラー

 

テリファイド(字幕版)

 

ホラー映画と一口に言っても、ジャパニーズホラーや洋ホラーといった制作国の括りと、心霊なのか怪物なのか殺人鬼なのかと登場する怪異によっても区別されます。この『テリファイド』はアルゼンチンで制作された映画。パッケージでも存在感を放つこの怪物の正体ですが、簡単に説明してしまうのは少し味気なくもあります。

まあB級ホラーだろうけどやはりパッケージが気になる。この痩せた裸の男は一体どんな恐怖を味わわせてくれるのかと興味本位で鑑賞したのですが、これが大正解。見事に当たりを引いてしまいました。既存のホラー映画の枠組みをしっかりと抑えつつも怪異を抽象的な表現にとどめることによってその不気味さに拍車がかかっています。

 

まず驚いたのがメニュー画面。私は基本自宅で映画を観る時は吹替派なので、DVDを挿入しトップメニューから吹替版に変更しようとしました。すると、字幕・音声のメニューには血まみれの女性が浴室で不気味に浮いている姿が。もうこれだけでだいぶ怖いというか、メニュー画面でビビらせてくるという気合がすごい。これは字幕で観ろというお告げなのでしょうか。

 

ストーリーは非常に簡素ではあるものの、具体的な表現が避けられているため奥深さを感じさせます。

ある女性が排水口から聞こえてくる「お前を殺す」という声に怯え夫に相談。夫は隣人の仕業だと考え抗議に向かいますが音沙汰なし。仕方なく帰宅すると、そこには浴室で宙に浮きながら何度も壁に体を打ち付ける妻の姿が。これがさきほど書いた音声・字幕メニューの女性ですね。そのまま妻は死亡し、夫は犯人だと疑われ警察に連行されます。逮捕された彼のもとへ面会に訪れたのはとある老人3人組。夫婦の事件が過去のある事件と酷似していることを説明し、更に夫婦の隣人が老人たちを頼ってしつこく連絡してきたことを話します。その隣人から老人へと送られてきたビデオには、パッケージにもいる不気味な男が移っており、隣人の枕元に静かに立っていたのでした。

 

この辺りは少し複雑。地域一帯が怪異に襲われているという始まりなのですが、次々と視点が変わり人物が増えるせいでなかなか掴み辛い構成になっています。しかし隣人が怪物と接触する回想シーンは圧巻の出来。パッケージの男の恐ろしさがとてもよく表現されています。

 

そして隣人の悲鳴を聞きつけた子どもが、車にはねられて死んでしまいます。ここで話が主人公のフネスの視点へと移り、子どもの死体が自宅に戻ってくるという超常現象を捜査することになります。この死体の気持ち悪さもグッド。ごく普通のダイニングに腐りかけの子どもの死体がポツンとある画面の不気味さが本当にすごいです。フネスは検死官のハノと話し合いますが、考えられる状況はただ一つ。彼らは、死んだはずの子どもが自分で歩いて家に戻ってきたという結論にたどり着きました。ハノは家の外で超常現象の研究家であるアルブレック博士と接触。博士曰く、博士が長年追っていた現象がこの場所で起きているそうで。

 

結局フネスは子どもの遺体を冷蔵庫に入れ、母親のアリシアから隠そうとしました。また、アルブレック博士はローゼットックという別の博士に連絡を取り、この現象をきちんと調べることに。逮捕された夫のもとに面会に来たのはハノとアルブレック博士とローゼットック博士だったというわけです。博士たちは自宅を調べる許可を取り、早速その夜から調査を開始。ここからフネス刑事が怪異に立ち向かうことになります。

 

 

この映画のすごいところは、抽象性を極限まで高めているという点にあります。話の焦点が常にぼやかされ、セリフも直接的な表現がおそらく意図的に避けられています。博士たちがフネスに怪異を説明する時ですら、「視点は一つではない」とか、「角度を変えよう」みたいな漠然とした言い方にとどまっており、彼らの正体が何なのか劇中ではっきり語られることはありません。ですがまあ正体自体はきちんと映画を追っていれば分かる仕組みになっています。要するに、この街では「この世とあの世が一つになる」というような現象が起こっているわけです。そのために死んだ子どもが何事もなかったかのように自宅に戻って食事を始めてしまう。アルブレック博士やローゼットック博士も「あの世の者」に殺されますが、死んだ後もハネスに接触してきます(ひどい死に方をしたのでこれがまた怖い)。しかし、その状態が不完全なのか死人が日夜常に存在するという段階にまでは至っていません。これが死者たちが意図的に起こした現象なのか、それとも偶然の産物なのかは分かりませんが、少なくとも死者たちは揃って攻撃的。博士たちは次々と殺されてしまいます。ここから先の展開はご自分の目で確かめていただければと思います。

 

アルゼンチン産ホラーという聞きなれないジャンルのせいもあるとは思いますが、核心がぼかされつつ怪異だけが進行していくという恐ろしさに目が離せなくなりました。恐怖感を煽る演出もきちんとなされていて、「ちゃんと怖い」映画に仕上がっています。B級映画と侮るなかれ。こういった傑作が出てくることもあるから、やはり知名度の低い映画にも手を出していかなきゃならないんですよねー。

 

テリファイド(字幕版)

 

 

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