既に第14話放送後なのだが、1クールを終え一区切りついたところで『ウルトラマンタイガ』前半(第1話~第13話)の感想をまとめようと思う。令和初のウルトラマンで、あのウルトラマンタロウの息子が主人公。その上タイガの他にタイタスとフーマ、合計3人のウルトラマンが主人公のヒロユキに憑依するという斬新な設定が話題を呼んだが、果たしてその試みはどうだっただろうか。
1話の冒頭からニュージェネレーションとトライスクワッドの面々がウルトラマントレギアに倒されてしまうという衝撃の展開。トレギアは『劇場版ウルトラマンルーブ』にも登場していたが、その時はロッソ・ブル・グリージョが合体したウルトラマングルーブの踏み台になってしまったため、この1話で改めて彼の強さを知ることになった。散り散りになったトライスクワッドの面々だったが、タイガは地球で友達を守ろうとするヒロユキに共鳴し、彼の体内で回復を待った。そして12年後、民間警備会社E.G.I.S.で働いていたヒロユキがピンチに陥った時、ついにタイガが姿を現わす。それがヒロユキとタイガとの出会いとなった。
その後、タイタスとフーマも合流してヒロユキの中には3人のウルトラマンが共存することに。それぞれ異なる出自を持つ彼らは、性格や戦い方も三者三様。従来のフォームチェンジに当たる要素が本作では別のウルトラマンに変身という形で表現されている。これは『仮面ライダー電王』に通じるものであることは第1話の感想でも書いた。
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キャラクターについて
『オーブ』以降、主人公(ウルトラマン)が防衛隊に所属していなかった作品が続いたが、今回は民間の警備会社で宇宙人が関わる案件も担当しているという一風変わった設定。戦闘機までは持っていないが、主人公が事件に積極的に関わる理由としては機能している。近年のウルトラマンシリーズは防衛隊の廃止に伴ってメインキャラクターもかなり絞られていた。それは2クールという制限と販促の充実の中でシリーズが導き出した答えでもある。平成ウルトラマンは10人未満ほどのメンバーがレギュラーとして活躍することが多かったが、オーブ以降は5,6人に留まっている。
しかし、『タイガ』はウルトラマンが3人という設定故にその流れを元に戻した。E.G.I.S.のメンバー4人とウルトラマン3人、そして敵の霧崎(ウルトラマントレギア)で合計8人。しかもそのうち3人がヒーローなのだ。これは描くべきキャラクターが増えたことと同義でもあり、ここ数年の作品と明らかに異なる点である。だが、蓋を開けてみるとドラマパートを引っ張るのはE.G.I.S.の面々で、ウルトラマンの3人は戦闘シーンでのみ関わってくることが多い。つまり、それぞれのウルトラマンが人格を持っていながら、従来のフォームチェンジ形式と大して変わらないやり方になってしまっているのである。
タイガもタイタスもフーマもウルトラマンにしてはやけにキャラが立っている。それがこの作品が3人のウルトラマンを打ち出すに当たって必要なキャラ付けであることは理解している。しかし、彼らがその人間味を発揮するのは戦闘の時が中心で、ドラマパートにはほとんど関わってこない。タイタスやフーマの初登場回ですら、粒子になっていた彼らがドラマに割り込んでくるという体たらく。その後の戦闘シーンでのインパクトは絶大なだけに(特にタイタスのポージング)、あっさりと登場してしまったのが非常に惜しい。
2話ではチビスケを助けたいヒロユキと倒して被害を食い止めようとするタイガの主張が対立するシーンがあり、この違いがタイタスやフーマの加入でどう展開していくか楽しみにしていた。しかし、結果的には筋肉を推すタイタスとスピードを誇るフーマというキャラづけがなされただけで、彼らが各々の意見で対立するようなことはなかった。あってもそれはコメディ風のわちゃわちゃした喧嘩であり、ドラマパートとは関係がない。せっかく特異なキャラクターのウルトラマンを作ったのに、それがただキャラクター倒れになってしまうのは勿体ない。もっとドラマパートで激しく意見を対立させて、それぞれの信条の違いを浮き彫りにしてほしいというのが本音だ。現状では、3人とも確かに魅力的なキャラクターだとは思うが、これまでのフォームチェンジと変わらないし別に1人でもいいよな…と思っている。3人のウルトラマンという点を大々的に宣伝しておきながら、どうもその設定を活かしきれていないように見えてしまう。
反対にキャラクターとして育っているのはE.G.I.S.の面々。ここまででホマレ回が2回、カナとピリカの回が1回ずつ。第1話と第2話を入れればヒロユキ回は3回。キャラクター性でゴリ押ししてくるトライスクワッドとは異なり、彼らの過去や信念・正体が丁寧に描かれている。ただ、やはり1,2度メイン回があった程度ではまだキャラクターが形成されておらず、正直4人ともかなり薄味なキャラクターに感じている。葛藤を乗り越え宇宙人であることを告白したホマレの物語こそ前に進んだが、他の3人は個性がまだ弱い。また、ホマレの葛藤自体もあまり伝わってこなかったのが残念。何より危ないのは、主人公であるはずのヒロユキがただの「優しい人」止まりのキャラクターであること。自分の身を挺して地球人も宇宙人も怪獣も、助けたいと思ったら助けるというヒーローの鑑のような性格だが、その優しさが際立つのは第2話のチビスケの件くらいで、主人公にしてはどうもキャラが弱い。ウルトラマンとして戦う自信を喪失したガイ、自らの出自に悩むリク、正反対の兄弟カツミとイサミ、近年は主人公にスポットが当たる作品が多かったがために余計にそう感じてしまう。
メインキャラクターがこの人数ならもっと価値観をバチバチに対立させてほしかったなあという印象。一人一人のキャラクターが薄味なのもそうだが、個人にばかりスポットが当たるせいで彼らの関係性がまるで育っていないように思う。そのせいか、ここ数年の作品よりも登場人物に感情が入っていきづらい。特にウルトラマンが3人もいるのに小学生のような掛け合いが続くだけなのは正直キツいものがある。
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ストーリーについて
『ウルトラマンタイガ』の物語は、今のところ「打倒ウルトラマントレギア」が全てである。トライスクワッドはもちろん、ヒロユキとホマレも彼と因縁があり、数々の暗躍により地球人を恐怖に陥れているためトレギアの悪役っぷりは存分に演出されている。問題は、それ以上の目標が特に設定されていないことにある。
13話の時点でトレギアの目的は謎に包まれている。意味深な言葉を残し圧倒的な実力を誇示するトレギアに、未だトライスクワッドは歯が立たない。13話を通じてヒロユキ達が関わったほとんどの事件の裏にトレギアが存在し、彼とは何度も戦っているが強化形態のフォトンアースですら敵わなかった。しかし、言ってしまえば「それだけ」なのである。トレギアの目的が分からない以上、13話まででメインストーリーはトレギアに負け続けるだけの物語になってしまっている。もちろんオムニバス形式なので各回でそれぞれのキャラクターが活躍はするのだが、大きく物語が動いた回は少ない。ヒロユキ・ホマレとトレギアの因縁形成、タイタスとフーマ、フォトンアース登場くらいではなかろうか。そのせいでどうしても物語の進みが遅いように感じる。
更に残念なのは単発回の展開が似通っていることだ。前作『ルーブ』もそうだったが、オムニバス形式という作品の特徴もあり、多くの脚本家が参加している。第13話の時点で総勢7名。内訳としては林が4話、中野・足木・小林が2話、皐月・柳井・三浦が1話ずつ。しかし、このスタイルの弱点は、各ライターがしのぎを削って自由な作品を書くことで、物語の核がブレてしまうことにある。指摘した『タイガ』のメインストーリーが薄いことも、これに原因があると思っている。しかも、こんなに多くの脚本家を起用しながら、その内容が非常に近いのだ。不思議な女性が現れ、その女性の成長を通じてメインキャラクターが何かを感じ取るという流れが既に6話もある。もちろん前後編込みでの数字だが、ピリカと意気投合する女性・廃墟で踊るYoutuber・ホマレの過去を知る女性・魔法使いの少女と、何故こんなにも女性キャラばかりが登場するのだろうか…。偶然ではあるのだろうが、どうも既視感が芽生えてきてしまうし、その女性たちにスポットが当たるせいでメインキャラクターのドラマが薄味になる。
やはりライターを3人程度に絞ってキャラクターを育てていくのがセオリーかなと思うのだが、クレジットだけされていてまだ作品がない脚本家が2名いることを考えると、後半の展開も不安でならない。ここでまた謎の女性が出てきたらもはや笑ってしまう域だ。『ルーブ』後半ではメインストーリーをやっているはずなのに様々な脚本が乱立したことでオムニバスに見えてしまうという奇跡が起きたが、今のところ『タイガ』では完全にオムニバス形式に舵を取っている。これ自体は本来のウルトラマンシリーズにの則ったフォーマットだが、そのせいでキャラクターの良さを引き出せていないのは致命的だろう。霧崎の目的が判明すれば自ずとストーリーが動くだろうと思われるので、後半でなんとか挽回してほしいところ。
総合
総じて言うならば、まだグッとくる瞬間がないなあというのが正直な感想である。キャラクターも掴みかねているし、単発回もそれほどインパクトがない。衝撃的だったのはタイタスのポージングくらいだ。登場人物の関係性もまだ弱く、E.G.I.S.は霧崎の作戦にとりあえず対応しているだけ。あくまで民間警備会社なので進んでトレギアを倒しにいく必要はないかもしれないが、トライスクワッドまでもが後手に回ってしまっているのはいかがなものかと。特撮は趣向を凝らした独創的な演出が光るが、肝心の物語がうまく展開していないのは勿体ない。ウルトラマンを4人も登場させておきながら、そのキャラクター性が誇張されているだけに留まっているのも残念。ガイア、メビウス、ギンガS、ルーブのように複数のウルトラマンそれぞれの意見や考えの対立がもっとあってもいいと思うのだが、現状はマスコットキャラクター以上の性質を持っていない。
かなり酷評になってしまったが、今後の展開次第では化ける可能性を持つ作品だと思うので、後半には期待して鑑賞したい。
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