ロシア発のファンタジー映画『ウィザード・バトル 氷の魔術師と炎の怪物』。なんとも安直なタイトルだが、その内容もいたってシンプルなもの。よく言えば王道ファンタジー、悪く言えばありきたりな作品だった。
サンタクロースが氷の魔術師として炎の怪物から世界を救っているという設定。日本のファンタジーものだと主人公は大体炎タイプだが、そこはさすが雪国ロシア。正義側は氷で敵が炎なのである。魔術師たちは氷の玉を弓のように扱うことで攻撃する。上位の存在になるとシンプルに人を凍らせることもできる。この辺りは独創性があってよかったが、下っ端は弓以外の攻撃方法を持たないのが難点。まあ敵対する炎の怪物というのが空からやってくるから仕方なくもあるんだけど、初心者が飛び道具ってどうなんだ。
実は炎の怪物・キメラ達が出現したのには理由がある。世界を守る魔法使いの兄弟の長男カラチュンが、炎の怪物の力に魅入られて地球を破壊しようと企んだのだ。それを知った兄弟の父親は月の剣というカラチュンの武器を封印し、彼を牢獄に閉じ込めた。しかし、それがどういうわけか脱獄し再び地上で暴れ回っていたのだ。
そこでロシアの魔法使いを率いていた兄弟の1人・ミランは次々と仲間を増やしてキメラに対抗しようと考えた。その場に偶然居合わせたのが幼い頃に父親が蒸発し、母子家庭で育ったマーシャである。実はマーシャは以前から奇妙な幻覚に悩まされていた。そのことを知り彼女を特別な存在だと見込んだミランは、彼女の夢が未来を予知していることに気づく。
そんなミランが魔法使いの部隊に入るキッカケを作ったのが部隊の一員であるニキータ。英雄願望を持つ彼は、周りから落ちこぼれと揶揄されることに苛立ち、独断でマーシャを救ったのである。しかし、自らの職務を放棄したことでミランに叱られる。英雄になりたいという彼の感情はこの時既に危うさを見せていた。
嫉妬から悪に染まったカラチュンと兄弟の蛮行を止めようとするミラン。英雄になろうと作戦に首を突っ込むニキータと彼を心配するマーシャ。途中にはニキータとマーシャのどちらかが裏切り者になると予見され、どちらにも可能性があるだけに視聴者の気持ちをきちんと誘導してくれる丁寧さが心地よかった。
結果、裏切り者になってしまったのはニキータの方だった。剣の解放に必要な鍵を持つ5人のうち、生き残った最後の1人が自分の父親であることをマーシャが知り動揺した隙を突かれ、ニキータは裏切りの言葉を言わされてしまう。それによりカラチュンの手下となり最後の鍵を奪ってカラチュンに渡してしまうのだ。剣を手に入れたカラチュンはキメラを引き連れて世界を滅ぼそうとする。そこに対抗するのは、ミランとその兄弟。1度はカラチュンに屈した兄弟達だったが、ミランの固い決意に促されるようにカラチュンを氷漬けにする。そうして世界は救われハッピーエンドに。
後半にもイベントが満載で思わず2部作なのかと疑ったが、案外こじんまりとエンドロールに突入した。ミランとカラチュンの確執は確かに重要だが、てっきりミランの意志を継いだニキータとマーシャがカラチュンに打ち勝つ話だと予想したので、ラストの兄弟勢揃いカラチュン氷漬けには唖然となった。描写が薄かったわけではないけど、結局兄弟喧嘩で終わらせるのか、と。マーシャの愛を得たからこそ闇に堕ちなかったニキータと孤独を感じてキメラに魅入られたカラチュンが対比構造にあるのだけど、それなら兄貴を救ってやれよミラン…。「もうこいつは殺すしかない」という選択に陥るほどの葛藤がなかったのが残念。カラチュンを悲劇的な人物として描いてあっさり殺してしまうのはどうだろうか。
VFXはかなり見応えがある。ロシアのSFやファンタジーってそういうとこあるよね。至る所にハリポタ臭を感じるのは私が純粋にファンタジー慣れしていないからなのかそれとも…。サンタクロースと大々的に言っておきながらサンタ要素は薄いんだけど、一応サンタ映画としてエンドロールのオチは素晴らしかったと思う。小学生くらいでこの映画観てたらきっと虜になってた。それくらい奥深い作品。
ただ、設定が序盤一気にバーっとセリフで説明されるので追いつくのが大変。剣とかキメラとか、ファンタジー慣れてないとこの辺が曖昧のまま進んでしまうかも。